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赤い夢を見てから数日。
俺はその夢をまた見るのが怖くて眠れずにいた。
音を発するのが俺しかない白い部屋で、ぼんやりと天井を眺め続ける。
ぼぅっとした意識の中、時々誰かが部屋に入ってきて俺に話しかけてきているのを知っていたが、寝不足で十分に働いていない俺の頭ではその言葉を理解することができなかった。
ただ、色は覚えている。
橙色と、白。それと黄色。
橙色はあの男だろうか。シュヴァーン・オルトレイン。
白。白は誰だろう。ベッドの横に置かれた点滴をいじっていたから、医師なのかもしれない。
黄色。黄色は誰だろう。これは分からなかった。
ただ、この色の人間は優しい笑みを浮かべていた。儚げな笑み、といった方がいいのかもしれない。俺はその色と表情に興味が引かれて、朦朧とする意識をその人間に向けていた。
言葉を拾う。理解はできない。
あなたはじゅうざいにんで、ぼくのちからではあなたをひょうぎかいからすくうことはできません。あなたはいつかほうによってさばかれるでしょう。
ぼくは、あなたのりそうをしっていました。そのりそうに、ぼくもそうなればいいとおもっていました。……いいえ、いまでもおもっています。
あなたはまっすぐなひとだから、あなたはこのくにをあいしていたから、あんなことをしてしまったんでしょう。
ほんらいなら、これはいずれこうていとなるみとして、いけないことなのでしょうが、ぼくはあなたにいきてもらいたい。
あなたがいきられるみちを、よういしました。
すみません、あれくせい。きおくをうしなったあなたにはこくかもしれませんが、かれらとたびをどうこうして、このせかいをすくうてだてをさがしてください。
そうすれば、せいかをえることができれば、それをりゆうにひょうぎかいをだまらせることもできるでしょう。
すみません、あれくせい。
重罪人。俺は重罪人。俺が一体何をしたんだ。
黄色の人間の言葉を半分以上も理解できずにいた俺は、その黄色の目を見返した。
青色。澄んだ色。その目は悲しみに、苦しみに歪んでいた。口は無理やり笑みをかたどっていて、俺はなんだか申し訳ない気持ちになった。
黄色はいつのまにか部屋からいなくなっていた。
霞がかった思考と襲う激痛の中、俺は考えた。
この世界のことを考えた。赤い世界のことを考えた。
猫のことを考えて、俺はまた心臓に冷めた血が流れる感覚に嘔吐いた。
くらくらとする視界。それを狙ったように雪崩れ込んでくる睡魔に、俺は意識を手放した。
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