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意識が根底から突き上げられ目を開く。天井。赤くない。白い天井だ。
ギョロギョロと辺りを見回す。どこだここは。白い部屋。病室のような部屋。
あまり見たことのない繊細な造りの家具。誰もいない部屋。何もいない空間。
心臓が重く激しく脈打っている。荒い呼吸。血の気が引き、小刻みに震えている自分の体。
ここは。ここはさっきの。
どこか見たことのある橙色の男と話した部屋か?
シュヴァーン、だったか。俺は、俺は、……俺は?
荒い息を断続的に吐く度に、体が痛みを訴える。なにがなにやら分からない。
痛みと胸の苦しみと混乱に目が涙に滲む。
忘れていたことだ。忘れていたことを、なんで今更夢に見るのか。
心臓の中で渦巻く激情が苦しく重い。体に流れる血潮が酷く冷たく、何回も何回も心臓を通って吐き出されていく。その冷たさに俺は嘔吐く。気持ちが悪い。
なんで今更。猫が。俺と一緒にいてくれた猫が。なんで今更こんな夢を。ここはどこなんだ。
シュヴァーン。アレクセイ。知らない。そんな奴らのことなんて知らない。知らないんだ。
苦しい。痛い。俺は呻いた。
嘔吐く。違う。俺は知ってる。どこかで見たことのある橙色の男が騎士だということを知っている。
アレクセイという男は、あの橙色の男の上司だ。ゲームの中で死ぬ存在だ。
あの橙色が言っていたように、聖核に潰されて死ぬ男なのだ。
俺はアレクセイじゃない。アレクセイは死ぬんだ。死ぬ、死ぬ。潰されて死ぬ。あぁ、そういえば俺の飼っていた猫も。
「……ちがう」
違う。あの猫は老衰で死んだのだ。違う、違う、違う。
わけが分からなくなっていた。ここは、ゲームの中か? 俺はなんでこんなところにいるんだろう。猫、猫は……。
同じ考えが延々とループし、何を考えたらいいのか、何を考えたいのか自分でも分からずに俺は激痛に喘いだ。
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