訳が分からない。
 目を覚まして最初に思ったことがそれだった。
 俺は死んだはずなのに、とぼんやり考えて、とりあえず身を起こそうと体に力を入れる。

「……ぐっ!」

 途端全身に激痛が走る。
 痛みに慣れていない俺は浅い呼吸を繰り返し、不用意に動かしてしまった筋肉から力を抜いていく。
 浅い呼吸をするだけで痛い。肺に空気を入れることができない。
 なんとか全身から力を抜いたが、痛みを自覚してしまった体はなおも俺に痛みを突きつけてきた。

 ここはどこだ。俺は白い天井に顔を向けたまま目だけで辺りを見回す。
 俺がいる場所は病室を思わせる白く清潔な部屋だった。
 だが病室にしては部屋が広いし、窓もない。

 俺が寝ているベッドは頭の方を壁につけ、広さを持て余すように部屋の中程に置かれている。横には包帯の乗ったサイドテーブルと点滴が置いてある。
 点滴から垂れるチューブは、きっと俺の体に続いているんだろう。
 あとは妙に瀟洒な作りの家具が転々と壁際に置いてあるだけ。
 俺以外に人の気配はない。

 目を天井に戻す。俺は残念に思った。 
 逃げられなかった。
 逃げることに一度失敗すると、二度目が難しい。
 周りの人間が止めるだろうし、なにより死ぬときの恐怖をまた体験しなくてはいけない。
 嫌だなぁ。怖いんだって本当に。

 痛みと熱に浮かされて意識が朦朧とし始める。
 まぶたが落ちるといったタイミングに、かちゃり、と扉を開く音が聞こえた。
 音がした方に目を動かすと、橙色の服を着たどこか見たことのある男が驚きの表情でこちらを見ていた。

「……た、大将?」

 この声も聞いたことがあるな。誰だっけ。
 考えながら、なんとも微妙な表情を浮かべる男を見返した。


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