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「船に積んだ備蓄も減ってきてるし、買出しにでも行こうかねぇ」

 レイヴンの後ろについて宿屋を出る。砂漠の近くにある街の日差しは強く、熱線がジリジリとマントの表面を焼いた。強い光にフードをさらに目深にかぶり、目を細めて前を歩く紫を追う。

「これ、少なくなってきたやつのリスト」
「……あぁ」
「次に行くのが大陸から離れたところっていうこともあるし、多めに買っておかないと保たないわ」
「……そうか」
「そうやって目を細めること多いけど、眩しいんで?」
「……あまり、眠れていないから、……光が痛い」
「あらま。それじゃあついでにサングラスでも買っとく?」
「あぁ、……それはいいな」

 強い光に触れると頭が痛くなるし、レイヴンの提案に気分が浮上する。
 いつの間にか後ろに下がってきていたレイヴンが、俺の斜め前にいた。最初の頃のようにフードの下を伺ってくる素振りは無く、それがありがたかった。
 腫れものに触るような心配のされ方は苦しい。
 俺はレイヴンから渡された買出し用の紙を見た。

「……?」

 紙には変な記号が書かれていた。
 見たこともない妙な記号が並び、横にローマ数字らしき文字がズラッと縦一列に並んでいる。何かの個数を表しているのだろうか。遅々と歩きながら紙を凝視し、疑問に思って何回か回転させたりしてみた。
 俺の妙な行動に気付いたレイヴンが「どしたの?」と聞いてくる。

「いや、……これは何の紙だ?」
「へ? もしかして違うの渡してた? どれどれ……」

 熱線が降り注ぐ砂の街。建物から突き出すひさしの下で、立ち止まってレイヴンが手元の紙を覗き込む。そして首を傾げた。

「ん? ……合ってるか。これ、買出しリストの紙だけど」
「…………」

 レイヴンの言葉に、まさか、と思った。もう一度手元の紙を見る。俺の頭ではそれが変な記号としてしか認識できなかった。……そんなはずはない。
 レイヴンが俺をからかっているわけでもないだろう。いや、そうなのか? 彼を見ると、不思議そうな顔がそこにあった。
 満足に眠れていないから脳の機能が低下しているのだろうか。目頭を揉んでもう一度紙の上の記号を目で追い、……それ以上の情報は拾えなかった。

「もしかして寝不足で文字が追えないとかだったり?」
「…………」
「徹夜明けとか結構そうなったりするし、……て、ちょっと大丈夫?」
「…………あぁ、……いや」
「大丈夫じゃない感じねぇ」

 しょーがねーか。と紙を奪われる。慌てて紙を追うと、「それじゃあ担当変更で」とレイヴンが言った。

「俺が買って行くから、荷物持ち頼むわ」
「……すまない」
「いいっていいって。それじゃあサングラスを先に買いに行きますかー」

 そう言ってレイヴンが歩き出す。俺から取り上げた紙を人差し指と中指で挟みひらひらと振っていた。その背を追おうとした瞬間、誰かに腕を掴まれて声を上げる間もなく建物の間に引きずり込まれた。


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