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 ユーリが持ってきてくれたサンドイッチを無理矢理胃に流し込み、味の薄いそれにちょっとした違和感に首を捻りつつも出発した。途中、街中でされた彼らの会話の内容に、途方も無い話だと思った。
 残り三属性の精霊を集めるのは昨日の時点で分かっていたことだが、それに加えて世界中の魔核を精霊に変えるだとか、この世界の設定をよく覚えていない俺でも無理難題なのではないかと思えた。
 この世界で生きてきたユーリ達はそのことを承知で話を進める。それはまだ仮定の話だから色々な可能性を言っておけと、そういうことなんだろうか。
 会話するユーリ達を後ろから眺めながら、彼らはどうしてここまで前向きなんだろうかと疑問を感じた。

 空を見上げると星喰みがそこにあった。青い空に取ってつけたようにある星喰みは、その静けさと違和感に漠然とした恐怖心を駆り立てる。あんなものをどうにかしようと考えるだなんて、馬鹿じゃないのか。
 物語の主人公とその仲間だからどうにかしてしまうんだろうが、そのことを知らない彼らがどうしてそう行動できるのかが不思議で仕方がなかった。
 ユーリ達の背中に目を戻す。
 
「そういえば、フェローは無事でしょうか」
「ザウデの砲撃をまともに食らってたからな……無事とは言い切れないな」
「フェローが囮になってくれたから僕達はザウデに辿り着けたんだ、見に行こうよ」
「……えぇ、そうね。心配だわ」

 エステルやユーリの言葉に顔を俯けるジュディス。その背中を見ていると、彼女の傍にいたリタがこちらを振り返り憮然とした顔で顎をしゃくった。

「おっさん共、さっさと行くわよ」
「ちょ、リタっち、おっさん共って……」
「あんたら二人以外誰がいるって言うのよ」
「いやー、まぁ、そうなんだけどねー?」

 俺の斜め後ろでレイヴンが肩を落とした。横目でレイヴンを見ていると、それに気付いたレイヴンが小さく「ねぇ?」と同意を求めてきたが、一体何の同意を求めているのか分からなかった。

「なぁにアイコンタクトしてんのよ、キモッ」
「リタっち今日も言葉の切れ味が鋭いわねー」

 レイヴンの目がこちらから離れたのを良いことに、俺は誰にも目が合わないように顔を背けた。歩く彼らの後ろをついて行きながら、俺はなんとはなしに街中を見回す。
 その光景は、俺が生きてきた世界とはまったくの別物なんだと俺に再認識させた。
 景観もそうだが、人が着ている物もコスプレ染みている。遊び用ではなくちゃんと生活できるように繕われた服を纏う彼らが歩く様は、違和感は無いがとても奇妙に思えた。
 祭でも無いのに道に屋台が出ているのもなんだか不思議だった。屋台の看板に描かれた模様を目で追い、そこの店主と目が合いそうになって顔を前に戻した。
 街から出るまでの間、周りの景色をぼんやりと眺める。頭の隅っこで何かがひっかかったが、特に気にすることなく次の目的地へと向かった。


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