16
氷塊の上を進んでいく道中、俺の予想は外れることなく的中した。
おぼろげな記憶通り、ゾフェル氷刃海には魔物がいた。寒さと空気の冷たさが刺さる中、進む彼らの後ろを粛々とついていく。
かじかむ手を握って、戦闘の邪魔にならない場所を探した。足場は制限されている。もう少し後ろにいた方がいいだろうか、と後ろに下がると戦闘中にも関わらずユーリに「あんま離れんじゃねぇよ」と言われる。
仲間達を気遣う時の暖かさなど微塵もない、その声色に足を止めて立ち尽くす。
そうすると目の前にジュディスが降り立って「もう少しあっちに行っててくださる?」と言い、魔物に突っ込んでいった。
ここは彼女が技を使うには邪魔な位置だったか、と言われた通りに動くとレイヴンにぶつかった。
「え? ちょちょ、大将?」
「……すまない」
今度は、弓を構えて後ろから援護していた彼の邪魔をしてしまった。
俺はどこに立ってたらいいんだろうか。ちょうどいい位置が分からずにふらふらとする。見かねたのか、レイヴンが俺の腕を引っ張って前に出た。
「大将は俺の後ろにいてちょーだい」
「すまない……」
「なぁーに、いいのよ別に。あぁああ寒い寒い……」
情けない声を出しながらも矢をつがえ、的確に援護をする。戦闘に慣れたその姿に、俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。
やはり俺は邪魔だった。分かりきっていたことだが、こう邪険にされ、庇われると、まざまざと実感する。俺はどうしてここにいるんだ?
戦闘が終了してユーリのうっとおしそうな目が刺さり、気持ち悪くなってくる。
彼らが互いに声を掛け合い、互いを労う。だがその空気は俺に触れないようにしているような、そんな被害妄想が膨れ上がってキリキリと胃が締め付けられる幻痛が走った。
気にしないでおこう。しょうがないだろう、俺は一般人なんだ。俺はアレクセイじゃない。アレクセイじゃないんだ。平和な国で生きてきた俺が、剣を振るえるわけがない。
彼らの失望はお門違いだ。しかたがないだろう。
剣の柄に手を置いて、耐えるように握り締めた。手がかじかんで痛い。彼らもこういう思いをしているだろうに俺は。
「大将、大丈夫?」
フードを深くかぶり込んで俯いていると、レイヴンが覗き込んできて思わず仰け反る。
「どこか怪我でもした?」
「アレクセイ、怪我をしたんです?」
レイヴンの言葉にエステルが心配そうに近寄ってきた。
そんな二人に怖気づいて後退る。
「ちょっとエステル! 離れなさい! 今ので怪我するわけないでしょ!?」
「でも、リタ。アレクセイは戦闘ができません。もしかしたら……」
「どうしてあんたはそう……! いいから離れなさい!」
烈火の如き怒るリタがエステルを俺から遠ざけた。それでも心配そうにしているエステルにレイヴンが「大丈夫よ嬢ちゃん、怪我無いって」とフォローする。
一連の流れにどう反応したらいいか分からない俺は、レイヴンの言葉にかろうじて頷いた。
エステルは納得いってなさそうな顔をしているが、俺に構わないで欲しい。
カロルやエステル以外、冷たい目を向けてくる彼らが怖い。俺は傍にいるレイヴンの背を押して、彼らに加わるように促した。
「私のことはいい。君もあっちに」
「いやいや。俺様がいないと後ろから魔物が来たら対処できないでしょ。大丈夫ですって。大将のことは俺が守りますんで、大船に乗った気でいてちょーだい」
「…………あ、ぁ。……そうか」
レイヴンの言う通りだ。俺では魔物を倒すことができない。
いたたまれない気持ちで彼らから顔をそらす。早くエアルクレーネまで辿りついて欲しい、と願った。
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