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 初めて見た外の世界の感想は、眩しい、だった。
 ギスギスした雰囲気の中、俺はユーリ達の後ろをついて歩き、城の裏口とやらに向かった。
 あまり使われていないのか薄暗い廊下の突き当たりの扉を開け、そして廊下同様薄暗い路地裏らしきとこに出た。
 空気がガラリと変わる。内の空気と外の空気は別物だ。
 目深にかぶったフードを邪魔に思いながら空を見上げた。
 よく分からない建物で区切られた空は青く眩しかった。何やら環状の帯と、その先に黒い物体がぽつぽつと見える。
 帯の方は多分、結界魔導器だな。黒い物体は……星喰み、だろうか。

「……大将」

 青い空に浮かぶ異物二つをぼーっと眺めていると、俺の横からレイヴンの声が聞こえた。その声に俺は前を向いて歩き出す。先に行っていたユーリがこちらを横目で見ているのに気付いて目をそらした。
 もう少し、フードを下におろすか。これ以上下げると目が完全に隠れてしまうが、先行する人間がいるんだ。足元さえ見えていればいいだろう。
 歩くたびに引きつる傷口に違和感を覚えながら、路地裏をうねうねと曲がり続ける。
 地面でさえ元の世界と違うことに驚きつつ、足元を中心にあちこちに目を滑らす。違う。どこもかしこも、ちがう。小さくため息を吐いた。

 ようやく明るいところに出る。
 それからさらに歩き、門をくぐり抜けて街の外に出た。
 俺はもう一度空を見上げた。何も区切る物がない空。星喰みを抜いたら元の世界とさほど変わらないそれに安堵する。

「そういえば、大将」

 付き添うように俺の横にいたレイヴンが、ふと何かを思い出したように声をかけてきた。顔をそちらに傾けて、レイヴンを見る。
 レイヴンは若干気まずそうに俺と視線を合わせるか否か迷っていた。

「大将はいろんなことを忘れちまってんのよね?」
「……そう、だな」
「じゃあ、剣は扱える?」
「…………どうだろうな」

 俺自身は剣を扱ったことはない。
 けど、この身体はアレクセイの物だ。剣を振るったら自動的に何かしてくれるんじゃないか、それか何をしたらいいか分かるんじゃないか、とそう思った。
 だがユーリ達と行動を共にする前、病室で一回だけ剣を振るった時の感覚を思い出して、無理なんじゃないかと不安になった。

「試してみま、……みる?」
「いや、……私は多分、剣を使えない」
「でもまぁ、一応やってみましょっか」

 できるだけアレクセイの口調を心がけて喋るが、変じゃないだろうか。
 レイヴンは先を行くユーリ達に声をかける。嫌そうな顔をして振り向くユーリ他、あまりいい顔をしていない彼らを見ないように顔をそらす。
 やめて、欲しい。
 そんな願いも空しくレイヴンが俺の剣の腕を確かめる、と言って近くの魔物を指差した。斬れというのだろうか。

「プリツボミだったら弱いし、試し斬りにいいんでない?」

 その言葉に俺はレイヴンを見た。
 試し斬りなんて言葉、学校の授業で歴史の勉強をしていた時にしか聞いたことがない。まったく悪びれている風もないので、それは彼にとって普通なのだろう。
 俺も、そうなるんだろうか。そうなれるんだろうか。
 ひょこひょことこちらに近づいてくる魔物に目を向けて、俺は剣を抜いた。途中引っかかってカチッと金属が擦れる音がした。
 えっ? という声が聞こえたような気がしたが、俺はそのまま魔物に向かって剣で殴るように振るう。植物のような見た目にしては、肉を斬った時の感触がして全身に怖気が走った。

 あ、と思った時にはその魔物は俺の前で倒れて、うごうごと逃げるように蠢いた後、動かなくなった。とても呆気なかった。
 俺はそのことに呆然として、その場に立ち尽くした。


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