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俺は初めてあの白い部屋から出た。
先を歩く男の背を眺めながら、無機質な廊下を歩いていく。
自分の腰に差された剣が少し揺れる。あまり大きく揺れているわけではないが、慣れていない俺はそれが気になってしかたがなかった。
俺が歩くたびに、その歩調に沿うように揺れる剣。うっかりするとどこかにひっかけそうだ。
俺の前を歩くのは、甲冑に身を包んだ一人の騎士だ。
顔まで覆われているので、その顔は知れない。
男は無言で廊下を歩いている。
こちらから振れる話題もないので、俺も黙って歩く。
がしゃがしゃと甲冑が立てる音だけがこの廊下に響く唯一の大きな音だ。
俺の足音なんて掻き消されてしまう。
俺は今から、旅に同行するという人間に会いに行くのだ。
三日三晩眠り続けた後、起きた際に横にいた橙色の男が言っていた。
これから一緒に旅に出てもらう、と。
橙色の男と話して三日後。旅衣装を身に纏い、俺は廊下を歩いている。
あまり寝ていない。少しの睡眠でもあの赤い夢を見る。俺はその赤い夢を見たくなかった。猫に会いたくなかった。
若干ふらつく足元に不安を覚えないではないが、仕方が無い。
眠りたくないのだ。
これから会うのは多分、テイルズオブヴェスペリアの主人公組なんだろう。
シュヴァーンが、一緒に旅に出てもらう、と言ったのだ。
彼はレイヴンだ。レイヴンは、主人公達のパーティーメンバーの一人だ。
少し、いや、とても不安だった。
今、俺はアレクセイだ。
ユーリは、アレクセイを憎んでいる。
俺は間接的な悪意も、真っ直ぐな悪意も、苦手だった。
できたら八方美人に生きていきたいと思っている俺には、心が痛い。
耐えられるだろうか。いや、堪えなくちゃいけないのか。
不安だ。
階段を上がって、もう少し歩いて、前を歩いていた騎士が足を止めた。
騎士は俺に一つの部屋に入るように言った。その部屋に待ち人がいるんだと。
俺は逡巡した。扉をじっと見つめて、このままどこかに行ってしまおうかと考えた。
そんな考えを見透かしたわけじゃないだろうが、扉を見つめる俺の前で騎士が部屋をノックした。
男に対して少し殺意が芽生える。
中から返事があって、扉を開く。
俺は覚悟を決めるでもなく思考を放棄して中に入った。
そしてそこに立っていた、殺意を、怒りを塗り固めた目が俺を射抜かんとしているのを見て、足を止めた。
心臓に嫌な血が流れた。
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