嘘吐きスタート 7

 不気味な校内に反して体育館はいたって普通だった。体育館に集まった他の人達は一様に不安そうにしている。何が起こるのか、嫌な予感に辺りを見回したり人の顔を見たり。堂々としている人間も何人かいるが、俺はどちらかという前者の人間の部類で、いきなりどうしてこんなところに集められたのか不安に辺りを確認した。
 見る限り、普通の入学式のように見える。赤い絨毯が敷かれ、その上にパイプ椅子が置かれていた。そのパイプ椅子の数が異様に少なく、俺は不思議に思って首を捻った。

「……少ないな」
「え? 何が?」
「椅子の数。高校なんだから、数百人ぐらいいたっていいだろう? なのに、今いる人数に合わせたような数しかない。……俺達しかいないのか……?」
「そう、だね……おかしいよね……」

 俺の隣で不二咲さんが不安そうにする。
 その反応に、俺は失言してしまったと後悔した。これ以上不二咲さんを不安にさせてどうする。そんな俺の後悔を吹き飛ばすように、近くにいた葉隠君が豪快な笑い声を上げた。

「大丈夫だべ! 椅子を並べた人がうっかりしてただけで、これからいっぱい来る! それか上級生達がどっか隠れてこっちを驚かそうと……」

 葉隠君の言葉にかぶせるように、その声が響いた。

「オーイ、全員集まった〜!? それじゃあ、そろそろ始めよっか!!」

 その声を聞いた瞬間、俺はまた激しい頭痛に襲われた。頭の中を、胸の中を駆け巡る不快感に顔をしかめ、壇上から勢いよく飛び出してきたそれを睨みつける。

「え……? ヌイグルミ……?」

 不二咲さんが呆気に取られたように呟いた。赤い壇上の上にいたのは、確かにヌイグルミに似た何かだった。黒と白、縦半分に色分けされたクマのヌイグルミがふてぶてしく座っている。そのヌイグルミは、小さく呟かれたはずの不二咲さんの言葉を正確に拾い、反応した。

「ヌイグルミじゃないよ、ボクはモノクマだよ! キミたちの……この学園の……学園長なのだッ!! ヨロシクねッ!」

 不愉快だった。明るく能天気な声に、ガンガンと頭が痛む。何か思い出しそうな気がして考えるが、何も思い出せなかった。考え込む俺をよそに、山田君の叫び声と他の人達の戸惑いの声がざわざわと周りを騒がした。

「う、うわわわわ!! ヌイグルミが喋ったぁぁぁぁ!!」
「落ち着くんだ……! ヌイグルミの中にスピーカーが仕込んであるだけだろう……!」
「だからさぁ、ヌイグルミじゃなくって、モノクマなんですけど! しかも学園長なんですけど!」
「うわぁぁぁぁ! 動いたぁぁぁぁ!!」

 うるさい。非常にうるさかった。山田君の叫びに大和田君が不安を押し隠すようにちょっとキレた。何かのコントのように、困惑した人達と自称学園長のモノクマが言葉の応酬をしたのち、モノクマが咳払いをする。早々に本題に入りたい、といった風なのがありありと分かった。

「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います! まず最初に、これから始めるオマエラの学園生活について一言……。えー、オマエラのような才能溢れる高校生は、『世界の希望』に他なりません! そんな素晴らしい希望を保護する為、オマエラには……『この学園内だけ』で共同生活を送ってもらいます! みんな、仲良く秩序を守って暮らすようにね!」

 周りの戸惑いの声と、モノクマの説明。痛む頭に吐き気を堪えながら、俺はそれを全部聞いていた。こいつは何を言っているんだろうか。さらに説明されるモノクマの言葉に、俺は目を閉じた。無期限の学園生活。出るには人を殺さなければならない。この不気味な学園に閉じ込められたとちゃんと理解した時、俺は絶望的な気分で手に収まった電子生徒手帳に目を落とした。


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