嘘吐きスタート 6

 体育館への出入り口がある小さい部屋に、俺達二人はようやく辿り着いた。
 その部屋が俺の目覚めた場所だということに気付き、見事なとんぼ帰りに微妙な気持ちになる。
 部屋の中には他にも人がいた。大和田君を先頭に今まさに体育館へと入っていく人達を見送り、部屋を見回す。この部屋に残った人達は四人。舞園さんに霧切さん、苗木君に江ノ島さんだった。
 霧切さん以外は戸惑っているようだ。そのまま体育館に入っていっていいものか迷っている。それを紛らわすように会話がされていた。
 苗木君と舞園さんが話をしているのを横目に、俺は江ノ島さんに話しかけた。

「行かないのか?」
「こんなヤバげな所に入りたくないって……」
「? そんなにヤバそうなのか?」
「ヤバげな雰囲気の中であの呼び出しっしょ? ヤバくないわけないって!」
「そうか、確かにそうだね」
「……アンタ、ちょっと抜けてない? 主に頭とか」
「頭痛のせい、だといいなぁ……」
「やっぱあんた抜けてる!」

 真っ赤なネイルがされた指で俺を指し、江ノ島さんは笑った。腹を抱えて俺を小馬鹿にする江ノ島さんは、ひとしきり笑ったあと「なんか気が抜けたし、あたしももう体育館に行くわー」と行ってしまった。
 立て続けに「ぼーっとしてる」やら「抜けてる」やら言われた俺は少し自信を無くしていた。自分ではしっかりしている方だと思っていたけど、それはやっぱり自己評価でしかないのだろう。
 自信の無さに何か「役」を演じたい気分になった。少なくとも「役」に徹している間は「自分」はいなくなるのだから。俺は今まで演じてきた「役」を思い返して、その中から自信あふれる設定の人間はいなかったかと模索した。
 考え込んでいると袖を誰かに引っ張られてそちらを見る。不二咲さんだ。

「皆行っちゃったし、ボク達も行こうよぉ……」
「え? あれ? いつの間に?」

 さっきまでいたはずの三人もいつの間にかいなくなっていて、俺は思わず苦笑した。

「……駄目だな。これじゃあぼーっとしてるって言われるのも仕方ないか」
「で、でも貴暮君、頭痛いんでしょ? 頭痛い時は誰だってぼーっとするよ。ボクも徹夜でプログラム組んだ時とか、頭痛くて何も考えられないもん」
「励ましてくれるの? なんだか嬉しいな。ありがとう不二咲さん」
「えへへ……。少しでも役に立ててるんだったら、ボクも嬉しいよ……」
「それじゃあ、皆待ってるだろうし行こうか」
「う、うん!」

 嬉しそうに笑う不二咲さんに癒されつつ、俺は開いてる体育館の扉に向かった。


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