嘘吐きスタート 4

「……おい、そろそろ本題に入るぞ。仲良く「はじめまして」ばかり、やっている場合でもないんだ」
「あ、そういえば……さっき言ってたよね。この状況がどうとか、問題がどうとか……。それって、どういう意味なの?」
「えっと、それはですね……」

 苗木君の疑問に舞園さんが話し始め、それを皮切りに他の人達もこの場所の異常性を訴え始める。ここに集まっている人達も俺と同様に玄関ホールに足を踏み入れたと同時に目の前が歪み、意識を失ったそうだ。それから意味の分からない、不気味な校内で目を覚ましこの玄関ホールまで戻ってきたんだという。
 ただ、教室や廊下の窓に打ち付けられた鉄板のことを俺は知らなかったので思わず「そうなんだ」と呟いてしまい、桑田君に微妙な顔をされた。

「知らなかったのかよ……」
「あぁ。玄関ホールを目指すことばかり頭にあったから、周りに目を向けてなかったよ」
「ぼーっとしてやがんだな、お前……」
「頭痛のせいだと思う。……多分」
「多分かよっ!」

 確かにそういう風に見られることは多いが、俺はしっかりしている方だ。実際、仕事仲間からそれで驚かれることがある。見た目よりもしっかりしているんだなとよく言われるし、大丈夫なはずだ、多分。
 荷物も無いという江ノ島さんの言葉に俺は自分の尻ポケットに手を這わせた。そこにいれているはずの財布も携帯も無い。一応、と着ていたベージュのカーディガンのポケットに手を入れると飴玉が出てきた。微妙な気持ちになった俺はそっとポケットの中に飴をしまう。
 あぁ、でも飴は頭痛にいいかもしれない。そう思い直して飴の包み紙を破いて口にいれた。あまり好きじゃない黒飴だった。いつのまに俺のポケット入っていたのか謎だが、キリキリと尚も主張する痛みにどうでもよくなった。

「それに、妙なのはこの玄関ホールもだ! 奥の入り口が、妙な鉄の塊で見事に塞がれてしまっているじゃないか……」

 一際大きな声で言う石丸君の言葉に、江ノ島さんが事件に巻き込まれたのではないかと言う。江ノ島さんの言葉に一部を除いて皆が不安そうな顔をし、その中で葉隠君が学校側のオリエンテーションだと前向きな発言をした。
 俺はそうだとは思わなかったが、葉隠君の言葉に皆の間で漂っていた緊張感が少しほぐれた。そして、その瞬間を狙ったかのように学校のチャイム音が鳴った。
 壁側から聞こえる音に頭を押さえつつ顔をあげる。
 壁に埋め込まれたテレビにノイズが走り、ぬいぐるみのクマのようなシルエットが浮かび上がる。場違いな声が響いた。

「あー、あー……! マイクテスッ、マイクテスッ! 校内放送、校内放送……! 大丈夫? 聞こえてるよね? えーっ、ではでは……」

 その声を聞いた途端、頭痛が一層酷くなる。頭の中で『嘘吐き!』という言葉が出てきて、口内の飴を力強く噛んだ。俺はそれが一体どういうことなのか分からなかった。
 俺はこの声の主を知らない。なのに、なんで『嘘吐き』なんだ?
 ガンガンと痛む頭。明るく軽快で不快な声が否応なしに耳に入ってくる。耳を塞ぎたかった。

「えー、新入生のみなさん……今から、入学式を執り行いたいと思いますので……至急、体育館までお集まりくださ〜い。……って事で、ヨロシク!」

 それだけを言い、テレビの中のシルエットがぶちっという音と共に消え、玄関ホールに沈黙が落ちた。


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