嘘吐きスタート 3

 振り返ると、俺よりも背の低い男子がいた。彼は俺を見て困惑気な顔をし、それから玄関ホールに集まった人達を見てさらに眉を下げた。なんとなくどこかで見たことがあるような気がしたが、すぐに名前が出てこなかったのでとりあえず軽く頭を下げる。

「えぇと……はじめまして? だったかな……」
「えっ」
「あぁごめん。いきなり意味の分からないことを言って……」
「いや別に。ボクこそ、はじめまして」
「ご丁寧にどうも」

 やはり初対面だったらしい。
 お互いが頭を下げて間の抜けた挨拶をしていると、玄関ホールに集まった人達の誰かが力の抜けた声で言った。

「なぁーにしてんだべ。そこのオメーも、ここの新入生か?」
「じゃあ、キミ達も!?」
「うん。今日、希望ヶ峰学園に入学する予定の……新入生だよ」

 俺は玄関ホールの扉近くの壁に寄りかかり、目頭を押さえる。目の奥がズキズキと痛む。彼らの話す声を聞きながら痛みを逃すようにゆっくりと深く息を吐いた。
 流れで自己紹介を始めた彼らの声に痛みを覚え、少しいらつく。早く治ってくれるといいんだけど。

「そういえば、キミは?」
「ん?」
「キミの名前も知りたいんだけど……」
「あぁ、そうだったね。俺の名前は貴暮彰人だよ。よろしく、苗木君」
「貴暮彰人って、あの俳優の!?」
「知っているのか。嬉しいな」

 俺の名前を聞いて素直に驚く苗木君にくすぐったく感じ、苦笑する。元来、目立つことが嫌いじゃない俺にとって、名が知られているというのは嬉しいことだ。
 俺で自己紹介は終わりだったらしく、十神君のよく通る声が玄関ホールに響いた。


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