身隠しインサイド 2
不二咲さんと江ノ島さんは朝食を作っていたらしく、俺も自分の分を簡単に作った。大きな皿一枚に目玉焼き、焼いたベーコン、レタスを適当にちぎって盛り付ける。トースターから均等な焼き色がついたトーストを取り出し、包丁で三つに分けて皿の端に重ねた。朝はあまり食べる気がしないのでいつも少なめだ。不二咲さんがキラキラした目で見ていて、少しくすぐったい気持ちになった。
「わぁ、貴暮君、綺麗な盛り付けだね」
「毎日の習慣なんだ」
「へ〜なんか意外。アンタも不二咲と同じだと思ってたわ」
そう言いながら江ノ島さんが手際良く卵焼きを巻いていく。フライパンを揺らして卵焼きの位置を調整しているのを見ると、作り慣れていることが分かった。
「江ノ島さん、手馴れてるね」
「まぁね」
「うわぁ〜! すごい! 綺麗な卵焼きだ〜!」
フライパンをひっくり返して皿の上に乗っける。市販のもののように綺麗に巻かれた卵焼きに不二咲さんと一緒に「おぉ〜」と声を上げた。思わず拍手をして、つられて不二咲さんも拍手をした。江ノ島さんは腰に手を当て得意げにあごを引いた。
「ま、アタシにかかればこんなもんよ」
江ノ島さんは他にも鮭を焼いたり、お味噌汁を作ったり、りんごや野菜の皮を剥いて適当に切ったものをミキサーにかけ三人分のスムージーを作ってくれた。本当に手際が良い。誰が炊いたのかはわからないが炊飯器には白いご飯が白い湯気を出していた。炊き上がってるご飯を不二咲さんが微笑ましい動作で盛り、嬉しそうに食堂に持っていく。俺はその後ろを自分が作った朝食とスムージーの乗ったお盆を持って追った。
江ノ島さんが残りの皿を食堂の長テーブルに置いて席に座る。向かいの二人が座ったのを確認して、俺は一度キッチンに戻ってインスタントコーヒーを淹れて戻った。
「何してんの、早くしなさいよ」
「待っててくれたの? 先に食べてても良かったのに」
「一緒に食べようよ貴暮君っ」
二人に急かされて席に座る。三人で「いただきます」と声を合わせて言い、懐かしいものを感じてくすりと笑う。お行儀良く手を合わせ、重なる声に遠い景色がこちらにすりよってきた。ガヤガヤと給食の時間の騒がしい空気に身を包まれ、懐かしさに安堵の息を吐き、そして一気に遠のいていく。
コーヒーを一口飲んで、切り分けたトーストを口に運んだ。
「うん、流石アタシ。上手くできてる」
「うーん……、ボクのはちょっとしょっぱいかなぁ……」
「最初はそんなもんっショ。つーか初めてのわりには上手い方じゃない?」
「そ、そうかなぁ?」
「アタシの時なんか黒炭だったし。料理なんて場数なんだから頑張ればいいって」
「うん、分かった! ボク頑張るよ!」
黙々と食事を口に運びながらそんな二人を眺める。よほど彼女達を見つめてしまっていたのか、江ノ島さんと目が合い「なに見てんの」と揶揄するように言われた。彼女のいたずらっぽい顔に知らず顔が綻ぶ。
「元気でいいね」
「はぁ〜? 貴暮ちょっとジジ臭くない?」
「え? ジジ臭い?」
「その子供を見るような目とか声の調子、それに今のセリフとかさ〜。ちょっと達観しすぎだって」
「そうかな」
「そうだって! 草食系とは思ってたけどそれ以前じゃん。枯れてる」
「江ノ島さんが思ってるよりも枯れてないよきっと」
「孫を見る目でアタシらを物色してるってわけ? ちょっと不二咲、アンタ気をつけなよ」
「え? ボク?」
「待って、ちょっと待って、濡れ衣だ」
「いやアンタが言ったことだから」
江ノ島さんの言葉に罪悪感を覚えて誤魔化すようにコーヒーを口に運ぶ。口に含んでから自分の悪習慣に気付きコップを置いた。細いトーストの上にベーコンとレタスを乗っけて齧る。コーヒーの味が邪魔をしてよく分からない味が広がった。
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