青春ラジカル 6

 俺が食堂に戻った頃には話し合いは終わりに差し掛かっていたらしく、席から立っている人がちらほらいた。一瞬皆の視線が集中し、俺だと認識するとすぐに興味を失って机に向かった。俺は皆の視線の先が気になり机を見た。そこには一枚の紙が置かれていた。眉根を寄せた人間が多いが、原因はあの紙だろうか。机に近寄り問いかける。

「何かあったの? その紙は?」
「希望ヶ峰学園の案内図だよ……。僕たちが今いる場所は、正真正銘希望ヶ峰学園らしくてね……」
「? 正真正銘、希望ヶ峰学園?」

 机の上に置かれていた紙から顔を上げて、教えてくれた苗木君を見る。苗木君はその事実に信じられないといった顔をしていた。周りを見ると似たような反応が多い。俺は不可解に口を開いた。

「ここが希望ヶ峰学園じゃなかったら、俺達は一体どこにいるんだ? 正真正銘と言わずとも、ここが学園だって分かりきってることだろう?」
「え?」
「……あなた、ここが本当に希望ヶ峰学園だという確信があるの?」
「確信? よく分からないけど、ここは希望ヶ峰学園だよ」
「……んなバカな事あるかよ。こんな所が、国の将来を担うエリートを育てる学園だ? おかしいだろ!」
「おかしいも何も……いや、でも確かにこんな事態になってるのはおかしいけど……」

 大和田君の怒号に困り果てる。霧切さんの疑わしい者を見る目が俺に向けられていて、俺はなんでそんな目で見られているのか分からずにうろたえた。セレスさんの控えめな笑い声に顔を向ける。彼女は口元に手を当てて笑っていて、何事かと皆が注目するのを待って指を組む。大衆に見せるための動作に、小首を傾げている姿は人形のように思えた。

「ですが、よかったですわね。みなさんで手分けして調査した甲斐があったようですわ」
「あ、あんた話聞いてた? ど、どこに調査の意味があったのよ……!」
「あら、調査したおかげで判明したじゃないですか。逃げ場のない密室に閉じ込められたというのが紛れもない事実だという事が……」

 セレスさんの言葉に場が口を閉ざした。俺は考えた。腕を組み手で口元を隠して、セレスさんの言葉は確かにそうだ、とどこぞの探偵を気取ったセリフが頭の中でリフレインする。俺はこの状況が不思議でたまらなかった。

 腐川さんが「出口もないところに閉じ込められて、ど、どうすればいいの……」と頭を抱え、十神君が「簡単な事だ。ここから出たければ殺せばいい」と笑った。
 俺は十神君の言葉に首を傾げた。どうして人を殺さなくてはいけないのだろうか。学園長だとかふざけたことを抜かすモノクマが、その条件を提示したからか。だけど、なんで俺達がそれに従わなければならない? 体育館でモノクマが爆発し危うく大和田君が死にかけたのを見たからか?

 無意識にモノクマの言葉に従っている様に疑問が絶えなかった。閉じ込められたことに不安はあるが、皆が感じているだろう危機感がまるで無く、自分でも不思議だった。体育館の時の不安感は消え、ただ疑問だけが渦巻く。
 どうして俺達は閉じ込められているんだ? モノクマの目的はなんだ?
 話し合いが進んでいく。いつの間にかセレスさんが場の空気を取り仕切っていて、ここでの生活に適応すればいいと言い、俺はそれに内心で賛成する。セレスさんからモノクマから提示された学園でのルール、夜時間に関して一つ提案があった。

 『夜時間の出歩き禁止』
 なるほど、と頷く。守られれば一番問題は起きにくいだろう。自分たちで決めたルールだから破ってもモノクマからの罰は無いが、破れば信用を失う。
 セレスさんの言葉に困惑しながらも賛成の意が多く上がった。

「みなさん、賛成いただけたようですね? 良かったですわ。……では、わたくしはこれで失礼しますわ」

 そう言って彼女は立ち上がる。夜時間になるまえにシャワーを浴びたいと言い、立ち去る彼女を見送った。残った人達も、明日また調査をする、と話をまとめて会議を終えた。夜時間も近く、各自自室に戻っていく。俺も部屋に戻ろうと思ったが、小腹が空いていたので食堂の奥の厨房から果物を拝借して部屋に戻った。
 ベッドの縁に腰掛け天井を見上げる。りんごをかじりながら腑に落ちない気持ちに不快感を覚えていた。


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