青春ラジカル 5

 とりあえず俺は霧切さんの部屋に行くことにした。ホールを横切り赤い廊下に並ぶ個室のうち一つ、霧切さんの部屋の前で立ち止まった。霧切さんの部屋は赤い廊下の一番端っこにあるので分かりやすい。隣を見ると苗木君の部屋のようだ。俺は霧切さんの部屋のチャイムを鳴らした。しばらくの間待ってもなんの反応も無かった。

「ここにはいないのかな……」
「うぷぷ。こんなところで何をしてるのかな?」
「うわっ!」

 背後から聞こえた声に、俺は思わずそこから飛び退いた。俺のちょうど真後ろにいたのはモノクマだった。俺の膝下ぐらいしかない体長。何故かひどく癇の触る声。学園長だと名乗る、俺達をここに閉じ込めた元凶を憎々しげに睨みつける。

「食堂にみんな集まってるみたいだけど、オマエは何をしてるのかなー?」
「お前には関係ないだろ」
「霧切さんを探してるのかなー? 彼女なら視聴覚室であんなことやそんなことを……」
「はぁ?」
「あぁッ! ダメッ! これ以上ボクの口から言えない!」

 体型に似合わず非常になめらかに身体をくねらすモノクマに、嫌悪しか感じない。俺は奇妙な物体を無視して学園エリアに向かった。でも良かった。モノクマのあの言い方から考えるに、最悪の事態には陥っていないみたいだ。
 相変わらず目に毒な色彩をしている廊下を進み、視聴覚室らしき扉の前で立ち止まる。扉を開けようとした瞬間、向こうから開けられて霧切さんが出てきた。彼女は俺がいることに動きを止め、いきなりのことに驚くことなく俺を見上げた。

「……何をしているの」
「い、いや、集合時間になっても霧切さんが来ないから探してたんだ……」
「そう。私はもう行くわ」
「あ、ちょっと!」

 霧切さんは俺を押し退けると颯爽と去っていった。彼女の後ろ姿を見送り、苦笑した。あの様子じゃ探しに来なくても良かったな。自分も食堂に向かおうと足を踏み出したその時、どこからともなくモノクマが目の前に現れた。

「うわっ!」
「フラれちゃったねぇ〜」
「いちいち出てくるな!」
「うぷぷ、そんなこと言うなよ〜! ボクとオマエの仲じゃないか。あっ、ボクとの仲って言っても、そんな仲じゃないからね! んも〜、貴暮クンのどスケベ!」
「どっか行けよ」
「うぷぷぷぷぷぷ、ボクに用があったらいつでも呼んでね! オマエの呼びかけならたとえ火の中水の中……」

 モノクマの言葉の途中で横を通り抜けて食堂へ向かう。癇に触る含み笑いをするモノクマの声を足早に置き去りにし、俺はまた痛み出した頭を抑えた。

「嘘吐きめ……」

 何が”嘘吐き”なのか、無意識にこぼれた言葉に顔をしかめた。


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