青春ラジカル 3

 教室内を調べると、他に鉄板を打ち付けられているのは二階へと続く階段の踊り場部分にしかない。格子に阻まれているのでそこを調べることはできないが、俺はあんなところにもあったのかと格子越しに眺めていた。
 ここはもう調べることはないだろうと移動する。食堂とかがある、おそらく寄宿舎の役割を果たすエリアへと戻ることになった。
 道中、なんとなく気になったことを桑田君に聞いてみた。

「なぁ、桑田君。君はどこで目を覚ましたんだ?」
「あぁ? 俺か? なんかよくわかんねぇー鉄板が打ち付けられた部屋のベッドだよ。意味わかんねぇー子供のラクガキみたいなパンフレットに『玄関ホール集合』なんて書いてあっから出てみたら、扉に俺の名前が書いてあってさらにわっけわかんねーの」
「子供のラクガキみたいなパンフレット?」
「オメー見てねぇのか?」
「見てない」
「コレだよ」

 そう言って桑田君から渡されたのは、就学すらしていない子供が描いたようなお粗末なパンフレットだった。無邪気な絵が逆に恐怖感を煽る。文字も汚く、だが子供が書いたわりにはしっかりしている。多分、これは子供が書いたものではない。俺は絵を含めてまじまじと筆跡を見てみた。ちゃんと読めるように考慮されつつ、わざと崩したのだなと推測できた。

「これ、誰が書いたんだろう」
「アイツだろ、クマのぬいぐるみ」
「……? クマ……。あぁ、だからなのか」
「は? 何が?」
「結構安直だよな」
「だーかーら! 何がだよっ!」
「白黒、モノクロ、なクマだからモノクマ?」
「あーそゆことー……。つかオメー、話のテンポ悪すぎだろ。なんの話してるか一瞬分かんなかったわ」
「そう?」
「いきなり話変わりすぎ。女子か」
「ちゃんとついてるけど」
「んな真剣な顔しなくても分かってるっつーの!」

 桑田君に怒られつつ、今度は寄宿舎エリアの部屋を調べることになった。
 各々の自室を各自で調べる。俺は自分の部屋の鉄板に手をかけ、軽く引っ張ってみた。結果は同じだ。すぐに諦めて部屋を見回した。
 無駄な装飾は施されていない、無機質な部屋だった。必要であろう家具を最低限設置されただけの部屋。自分の家のものとさほど変わらない。さすがに鉄板だとか趣味の悪い色彩の床だとかは無いが、それでも物が無いという点では同じだった。

 仕事で貰った台本とかは専用の保管部屋があるし、それに俺は一度読んだ台本は丸暗記して二度と読まない。処分するのは舞台や脚本家に悪いだろうと置いてあるだけだ。
 一応、俺の物ではない物が煩雑に置かれていた時期もあったが、それは親に捨てられてしまった。面白味の無い、部屋の主を体現するような、そんな部屋だった。

 もう調べることもないだろうと部屋の扉を開けると、不二咲さんと江ノ島さんがいた。不二咲さんは俺の部屋のインターホンを押そうとしていたようで、驚いた顔をしている。

「おっ。グッドタイミーング! というわけでアンタ協力しなさいよ」
「ちょっと待ってくれ、どういうこと?」
「え、あの、えっとね、貴暮君に頼みたいことがあって……」
「頼みたいこと?」
「えっと、さっきボクと江ノ島さんで、部屋の中で大きな声を出して聞こえるかって確認をしたんだけど、ボクと江ノ島さんの部屋は離れてるからよく分かんなくて……。だから隣の貴暮君の部屋だったらどうかなって思って……」
「そういうことか。俺と不二咲さんは隣だもんな。分かったよ」

 不二咲さんの部屋は廊下の角のところにある。俺はその隣で、早速部屋に戻って確認してみた。何回か呼びかけるように声を出して、部屋を出てみる。腕を組んで廊下に立ってた江ノ島さんと目が合った。

「何か聞こえた?」
「なぁーんにも」
「そうか。わりと大きい声だったんだけどな……」
「防音性が高いんっショ」
「うーん、聞こえるよりか聞こえない方がマシ、なのかな?」
「そうとも言えないんじゃない? アイツ変なこと言ってたし……」

 江ノ島さんの言葉に、あぁ、と今思い出したような間抜けな声を出す。
 忘れていたわけではないが、なんだか重要なことではない気がしてしまっていた。現実感が無いからか?
 俺のそんな態度に、江ノ島さんは顔をしかめる。

「何、アンタもあの馬鹿みたいにこれがオリエンテーションかなんかだと思ってるわけ?」
「そんなことはないけど」
「……アンタがそんなんだと、ホンットーに気が抜けるわ」

 江ノ島さんの言葉にちょっとした違和感を覚える。彼女はもう俺に興味を失ったのか不二咲さんの部屋を見ている。
 俺はそんな江ノ島さんの横顔をまじまじと見ていた。彼女の人工的な長いまつげを見ていると、『彼女』のことを思い出してとても懐かしい気持ちになった。まだそれほど月日が経っていないというのに、もう数十年も前のように感じる。目を細めて、寂しさを噛み締めた。
 不二咲さんの部屋が開いておずおずと出てきた小柄な姿に、俺はホッとした気分になった。俺は努めて明るく「どうだった?」と声をかけた。


[*prev] [next#]
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -