花の子は本が好きらしい。見かけるたびに本を開き、それ以外はぼんやりとしている。部屋から出ることは許されず、花の子が言う母親にも会えず、幼子がここにいる意味とはなんだろうか。
俺が傍にいることに違和感を覚えず、花の子はその純粋さで俺を受け入れる。絵本の中の騎士のように笑う俺に幼子は手に持った本を朗読した。成長しきっていないあどけない声は、そのまま箱に詰めてしまいたいほどだ。その想像はとても甘美で、箱を振るたびに俺のためだけに喉を震わせるのだろう。
俺への読み聞かせの途中、幼子はふと何かを思いついたように俺を見上げた。
「あなたは、どうしていつも笑っているんですか?」
その問いに、幼子の不安を感じ取った俺は笑みを深くした。
幼子は「笑う」といった行為に母親を思い出すらしく、不安に理由を探る。闘病中で自身が苦しいにも関わらず笑顔を向ける母親。俺は絵本の騎士らしく、幼子の求める言葉を吐く。
【君がいるからだ】
幼子は不思議そうに、不安そうにする。
「わたしがいないときは、わらっていないのですか?」
少なくとも、花の子の母親は君がいない場では笑っていないだろう。
幼子の世界はとても狭い。自身の母親か、周りの兵士か侍女か、誰かに連れられて時々見かける人間たち、絵本の中の人々だけの世界だけ。
可愛そうな幼子に、否定する。
「あなたは、わたしがいるから笑うといいました。でも、わたしがいなくても笑うともいいました。あなたは、どうしていつも笑っているのですか?」
澄んだ緑がじっと俺を見上げ、俺はすぐに応える。
【君のことを考えているからだ】
花の子は恥ずかしそうに絵本で顔を隠す。
君の泣き声を聴いてから、俺はずっと花の子のことを考えているとも。
幼子の愛らしさに衝動で手が動く。頭を撫でようとして、思い直して手を下ろした。