その子はいつも泣いていた。
俺がその子の泣き声に惹かれて見た時、俺は一目でこの子が欲しいと思った。
初めて出会った時にはまだ知らなかったが、その子の名前はエステリーゼと言う。大きなお城に住む上等な服を着た幼子。俺は人の世には疎いものだったが、その子が上流階級の子であることぐらいは分かった。
そんな幼子は、自室らしき部屋で床に座り込み泣いている。
花を模したドレスが床に広がり、俺はその後姿を見て花の化身ではないかと疑った。花の子が泣いている。俺はたえがたく引き千切りたい衝動を抑えて人を模した。
床に散らばる絵本をちらりと見ると、黄色の髪と水色の目を持った人間が描かれていた。その姿を借り、俺はその子に話しかける。
「君、どうしたんだい」
自分でも吐き気がするほど甘い声。俺の声に花の子が大きな目を丸くさせて俺を見上げた。成人男性を騙るとなるとどうしても身長差が出てしまう。俺は座り込むその子の前に膝を折って、優しく語りかけた。
「どうして泣いているんだい」
「お、かぁ、さま、が……っ!」
そう言ってまた泣き始めた幼子の前で、俺は笑い続けた。