重たい目蓋を押し上げて最初に見えたのは豪華なシャンデリアが見える天井でもなければやわらかな真っ白いシーツでもなかった。固く冷たい大理石によく映える血を濁したようなそれ。(あぁ、床で寝たのか)ズキズキと軋む頭を押さえながら上半身を動かすと左肩に激痛が走り、覚醒する意識。赤い色をした絨毯に点々と黒い模様が見えた。


「おい、」

反射的にびくっと跳ね上がる全身、他人事のように思える程の異常な心拍数に吐き気がした。そう、だ。黒い模様は飾りなんかじゃないあれは私の、血だ。頭を押さえていた手で左肩を触るとぬるりと気色の悪い感触がした。


「……」


黙る二人は沈黙を破ろうとはしない。身勝手に呼びつけられて更に殴られるなんて迷惑もいいところだ。ただ私がこの人の"部下"というだけなのに。愛もなくただ性欲処理として抱かれるのなら私は逃げてやる。だって私はこんな仕打ちをされてもこの人を愛しているのだから仕方がない。(叶うはずのない想いなら捨てた方が楽なのかもしれないけど、)もういっそ殺してくれと望むのが清々しいかもしれないと思った。


途端に私の意識を無視して宙に浮く体。首を締め上げる手に恐怖さえ覚えた。



「いい加減認めたらどうなんだ、お前は逃げられない。」




あ、あぁ、ああ……
捕まえられた。


息が出来なくて、苦しくてなんだか胸も痛くて目が霞んできた。泣いてしまいそうだ。
ぐるぐると回るのは絶望。もう諦めてこの人に全てを捧げようか。幾度も逃げてきた私の体はもう限界で、自然と楽な解決法に思考が動いていた。


愛してとは言わないけど、私を飽きて殺すのなら私はあなたの寝首でも掻いてやるわ。



愛してる、から…ザンザス。



(たった一言、ただそれだけの言葉を口にするだけなのに酷く怖かった)

溺死する夜




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