ここは季封と呼ばれる地。
大きくはないが、中々活気のある街である。
そして、唯一カミと呼ばれる種族と共存する土地だ。
共存、と言ったって同じ土地に住んでいるだけ。
諍いがないか、といえばそうではないし。
仲良くないのかといえば、そういうわけでもない。
どこぞの合衆国みたいに色々な人種が集まって暮らしているのと同じことだ。
まぁそんなこと俺、天日嗣颯にはどうでもいい、というより全くもって関係のない話だ。
なぜならはこの神社の地下から出ることが出来ないから。
(暇すぎる)
16歳にもなっているのに学校なんて行ったことはないし。
同年代の友達だっていないし。
歳相応の話題だって知らないし。
退屈すぎて、死にそう。
『あなたたちは私みたいに、捕らわれたまま死んでしまわないでね』
母の最後の言葉がいつでも鮮明に思い出せる。
捕らわれたままっていうのはきっとこの神社から出ることなくってことなんだろうけど、周りの人間が俺の役割上、俺を逃がすことをはないだろう。
母の最期の願いを叶えることが出来ないだろうことを残念には思うけど、どうしようもない。
外に出たくない、と言えば嘘になる。
でも、もうあんな思いは御免だ。
別にそこまで不自由感じてないし。
強いて言うなら
『 』
たまに、こうやって誰かに呼びかけられるくらい。
声がはっきり聞こえてくるわけじゃない。
何言ってるかもわかんない。
でも妙に大事なことに思えて仕方ないのは何故だろう?
そして、懐かしい。
『嘘』
声。
『嘘だ』
声。
と、俺と同じくらいの少女の姿。
『嘘、嘘、嘘、嘘だぁぁぁっっ!!』
叫び声。
『嫌だ!【 】!!嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』
声が響いていたのはそれまでだった。
次に聞こえた音は爆音。
同時に豪風。
台風とか竜巻とかそういうレベルじゃなくて、天変地異とも言える風だ。
それだけじゃなく、豪雨も降り注ぎ世界が終わるのではないかと思うほどで。
“おまえの言うように、世界は一度終わった”
え?
“カミの世界は終わったのだ。それはおまえのせいであり、我のせいでもある”
意味わかんない。
何言ってんの?
それ以前にあんた誰?
“いずれわかる”
そ。
ならいいよ。
今知ろうと、あとで知ろうと同じことだろ。
“…死ぬな。おまえは赤鴉のように死ぬな”
は?
“これは我からの頼みだ”
―――生きてくれ
目が覚めた。
ああ、夢か。
天井の隙間から差し込む光が、今は朝だと教えてくれる。
にしても、妙に現実感のある夢だったな。
泣き叫ぶ少女と天変地異とも言える大災害。
そして、死ぬな、生きてくれと懇願する青年。
青年のほうは見たことがなかったけれど、少女のほうは知ってる。
あれは楸だ。
俺の、姉。
映し身とも言えるくらいそっくりな俺の姉だ。
ってことは、アレは完全に夢だな。
あんな大災害、俺の生きてる間に起こっちゃいないし。
なにより、楸は俺が八歳のとき。
彼女が十歳になったその日に死んだのだから。
さてと、夢のことなんか忘れて今日をどう過ごすか考えよう。
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