君と奏でる夜想曲(1/2)







「ねえスコール」

夜風に揺られながらセレネが控えめに俺を見て笑った。短い髪を耳に掛けてゆったりとした動作で振り向かれ、なんだかそんな仕草が大人っぽくてああ彼女は俺より年上なんだと再認識する。

「どうした」

バルコニーの柵に手を置いている彼女の横に寄った。肩の大きく開いたドレスを着たセレネはなんだか寒そうだ。ガラス越しの会場からはダンスのBGMにそこそこ良い音楽団がクラシックを奏でている。仄かにしか聞こえないが今はそれぐらいがちょうど良い。

「なんでタキシード着なかったの?」

俺たちの属しているバラムガーデンで今日、また新しいSeeDが誕生した。その就任祝いをたまにはガーデン以外でやろうと言うことになっていて近場の会場を借りて今に至る。その際に先輩SeeDはドレスコードフリーだったためセレネは薄水色のドレスを着ているのだ。

「別に…特に理由は」
「スコールのタキシード見たかった」

けれど俺はそんなことすっかり忘れていたし普通にSeeDの制服を着ている仲間だっていたことからいつもと特に変わらない制服を身に付けている。勿論さっきからセレネにブーイングされまくっているが。

「絶対カッコいいのに」

無意識なのか頬に空気が入って膨らんでいる。俺よりはいくつか年上なのに俺の前ではいつも子供っぽい仕草が多いセレネ。そんな彼女に心底惚れ込んでいたりする自分。

「セレネは綺麗だな」

ご機嫌斜めになる前にドレスを着たセレネの感想を伝える。呟いてからそっと腕の中に招くと嫌がらずに応じてくれた。
巨大なシャンデリアと大勢の生徒と関係者から生まれた熱気で暑苦しい会場と違い、ここは静かで涼しかった。ガラス一枚を隔ててまるで全く違う世界に来たみたいに。まるでガラスの向こうは異世界みたいで。

「お世辞?」
「本心だ」

世界から隔離されたようでもあった。
俺とセレネ、二人だけ。

「ほんとに?」

疑り深く見上げてくるセレネの左耳にさらさらとした柔らかな髪を掛け直してやる。くすぐったそうに身を捩るから、悪戯心を刺激されてわざと耳に唇を近付けて囁く。

「ほんとだ」

ふるり、とセレネの体が震えた。
寒さからではなく俺の声と耳に掛かった吐息の所為だろう。耳が弱いセレネの耳元でわざと話す俺は完璧な確信犯。華奢な体を更に引き寄せて腕に閉じ込めるとセレネの体温が少しばかり伝わってくる。左耳の耳朶に獅子をモチーフにした小さめのシルバーのピアスが光る。確かこれは彼女と一緒に買いに行って俺が選んだやつだ。

「スコールずるいよ、いつも耳元で言ってくる…」
「ちょうど良い位置にセレネの耳があるだけだろ」

左耳を抑えて少し赤らんだセレネの頬。
肌が晒されている腕や肩に手をやるとひんやりとしていて慌てて強く抱く。

「セレネ寒くないのか?」

心配でそう問い掛けると大丈夫だと軽く返された。寒さより今は違う話題の方が大事らしい。

「そうじゃなくて、スコールずるい!」

あくまで俺がずるいらしい。そんな理不尽なことを言われても現に俺とセレネでは身長が違うわけだし、本当にちょうど良い位置にセレネの耳がある。まあそれは後から取って付けた理由であって実際のところわざと耳元で話してるんだが。しらを切ることでまた可愛く反論してくるセレネを見るのが好きでつい意地の悪い返事を試してしまう。どうやら溺愛してるみたいだ。

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