背徳のコンチェルト(1/5)



そう、初めはわたしも不思議だった。
どうしてわたしはこちら側の駒として呼ばれて、混沌の者たちと手を組まなければならないのか。一応自分なりの正義は持っているはずだ。記憶が何もなくとも、性格までは変わりはしないだろうに。光か闇かで言えば光の満ちた世界でいたい。闇に葬られ太陽も月も見えない漆黒の世界でなど生きていたくない。だから不思議でならなかった。

「おまえがこちら側とはな」

銀髪の長身の男が薄気味悪い笑みを浮かべてわたしを見た。男の身の丈を越す程の刀はしっかりと鞘に納められている。
意味がわからなかった。この男は元の世界でのわたしを知っているのだろうか。意味深な言葉。

「誰?」

自分でも思い出すと笑えてくる。
道化が散々わたしを『可哀想な子ですねぇ』と馬鹿にしていたのも納得する。まあ、可哀想とは思わないしゲラゲラとうるさい道化も好きではない。まだこの目の前の男の方が数倍マシだった。











「ねえスコール、そろそろ真剣に闘ってみようか」

破綻しそうだった。
うるさい道化が嫌だからと取り敢えず銀髪の男の言いなりになって手合わせをしたり、秩序側の金髪の青年と闘ったのが悪かったのか。徐々にわたしは記憶を取り戻してしまった。忌まわしい日々の記憶を。護れなかった友の記憶を。

「あんたのお遊びに付き合ってる場合じゃないんだ、俺は」

彼を殺したのはわたしだった。
直接手を下したとかそんなんじゃないけれど。間接的にきっと殺したのはわたしだ。もっと早く駆け付けていれば、英雄の悪行に気付ければ。そうだ、悪夢はこの銀髪の男から始まったんだ。

「違うセフィロスが悪いんじゃない…」
「は?」

英雄は悪くない。結果的にああせざるを得なくさせられていたわけで。ああなるようインプットされていた、彼もまた立派な被害者だったんだろう。

「ごめんごめん、スコール忙しいの?わたしなんかと話してていいの?」

甦った記憶がわたしを苦しめて、破綻しそうな心をどうしたらいいかわからなかった。
そんな時偶然にも聞いてしまったのだ。『可哀想な子』と嘲け笑うような恐ろしくも妖艶な魔女の声を。魔女が見やる先には特殊な形状の武器を肩に担ぎ魔女を睨む若い男だった。胸元に獅子を象ったシルバーが揺れていた。

「だからそうではなくて…
あんたからクリスタルの在処を聞き出すのが俺の役割なんだ。」

彼の名はスコールと言った。
そして魔女の話によれば人を信じる余裕がなくて、自分の足で誰にも頼らず生きようとしているとか。きっと幼い頃に誰かに裏切られたのだろう。大事な大事な誰かに。

―――可哀想な子。

破綻しそうだったわたしの心は、目の前の男を哀れんで蔑むことにより自我を保った。自分より可哀想で哀れな奴がいるのだと、だから彼に近付いた。決して理由など話さない。ただ近くで嘲け笑うだけ。心の中で、あなたも本当は可哀想なんでしょう?と。
我ながら落ちぶれてしまった。

「そうだったっけ。
だったらほら、聞けばいいじゃない」
「だからあんたがまともに話を取り合ってくれないんだろう…?」

もうこんなやり取りは何十回と続けてきた。最初に接触したのはわたしから。
「クリスタルの在処を知ってる」と。そう言ったら彼は毎日わたしを探してはその先を聞き出そうとしてくるのだ。

「だからわたしを倒して無理矢理聞き出せばいいでしょ?だから闘おって。」

高い木の枝からふわりと飛び降りる。可哀想な彼の横に並ぶと意外と背が高かった。逆に見上げる形になってしまった。

「あんたと闘ったって俺が一方的に攻撃するだけになるだろうが」

そうそう。わたしはクリスタルの在処を教える気もないし彼に負ける気もない。更には彼と闘う気だってないのだ。
だってただ心の中で見下していたいだけなんだ。可哀想な可哀想な彼を。それなのに見ず知らずのしかも混沌側のわたしの言うことなんか真に受けて信じて毎日馬鹿みたいに彼はやってくる。

―――いい加減、
   騙されてるって気づきなよ

まあそんな馬鹿で可哀想なこの男が面白すぎて退屈しないからいいのだけれど。

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