世界の終わりのセレナーデ(1/2)



※トリップタークスヒロイン

















なんとなく眠る気になれなくて、俺は一人外の空気を吸いに来ていた。夜の静かな海に誘われるように浜辺に足を向けると、真っ黒な海に反するような白いシャツを着た彼女が波打ち際近くの砂浜に座り込んでいるのを見付けてしまった。

「セレネ」

声を掛けようとした時には既に彼女の名を音にしていた。ゆっくりと白いシャツに黒いネクタイの彼女が振り返る。少し驚きながらも「スコール」と俺の名を口にしてくれた。

「眠れないのか?」

隣にそっと腰を下ろすとセレネはまた前を向いた。視線の先には真っ黒に塗り潰されたような黒い海。月明かりでも海が黒く見えることに代わりはなかった。

「ううん、考えてた」

ゆっくりセレネが首を横に振ったのが気配でわかった。ざわざわと波が目の前で寄せては引いていく。

「考えてた?」

俺自身も話すのはあまり得意とは言えないが彼女…セレネの言葉もたまに足りないと思う時がある。先を促すように鸚鵡返しにセレネを見て聞くと目が合った。

「スコールは」

ぱちり、と大きな瞼が一旦閉じられて長い睫毛が月明かりに晒される。次の瞬間にはまた開かれてグラファイトの黒い瞳がスコールを捉える。

「世界の終わりには何をしたい?」
「は?」

突拍子も無い質問に思わず間抜けな声が出てしまった。たまに言葉が足りないが、意味がわからない時もある。セレネの方が年上だからとか多分そんなことは関係無い。ただ単に本当に

(いきなりすぎだろ…)

返答に困る。というか、考えたことも無い質問をされて今から考えるしか方法はない。しかし

(世界の、終わり…?)

少なからず魔女との戦いに向けて何かしら関連付けてこの質問をしてきたのだと、俺は思った。爛々と期待に満ちた大きな瞳が月の光を借りてキラキラと輝きながら俺に向けられている。期待されてるのだろうか…なんと答えたら彼女の期待に答えられるだろうか。

世界の終わり。
ここ最近はいろいろなことが起こりすぎて何かをゆっくり考える時間なんか無いに等しかった。しかしそれ以前に世界の終わりについてなど考えたことが無い。
スコールはセレネから視線をはずして考えた後、諦めたように再びセレネと視線を交わせた。

「考えたことないな…」

期待外れにさせて申し訳無い。
そんな気持ちで告げたがさしてセレネは気にしてなく「そっか」と一言言って微笑んだ。

「悪いな」

ぽん、とセレネの頭に手を乗せるとセレネは少し体を寄せて徐に語り始めた。
年はセレネの方が上だが、身長は勿論男であるスコールの方が断然高かった。

「魔女に…アルティミシアに時間圧縮された世界はどうなるんだろう」

やっぱりか、そうスコールは心の中で呟いた。世界の終わりと時間圧縮。そこを関連付けていたのか?

「時間圧縮されたら、過去も未来も今も無くなって、何が残るんだろうね」

それは俺にもわからなかった。勿論他の皆にも想像はつかないだろう。でもきっと良くないことは確かであろう。だからそれを阻止する為に、自分たちは戦っているのだ。

「過去も未来も今も無いのに、世界は存在する。じゃあ存在する時間を言葉で表すと?“今”?」

セレネの表情が少し曇る。
スコールはそんな彼女の茶色い髪を撫でて黙って聞いていた。

「でも、“過去”と“未来”があるからこその“今”なのに。一生続く今なんか今じゃない…」

黙って聞いているのはセレネの言葉をしっかり受け止めて考える為だった。

「永遠…なのかもな」

ぽつりと俺が呟いた一言に、セレネがゆっくり顔を覗き込んできた。

「永遠なんて、辛いだけだよ」

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