![]() ![]() 「まさかゼルと一緒の任務とはね」 「おう!よろしくなセレネ!」 数日後、セレネとゼルは任務を受けてエスタに来ていた。任務というのは単純にスコールの補佐。ここのところお偉いさんとの仕事やら何やらが多いらしく、大変なのだそうだ。上司の機嫌取りは神羅で散々やってきている。セレネの元気の無さに見かねたキスティスがセレネを行かせることを提案したらしいが、思いの外セレネは適役だったかもしれない。ゼルはというとリノアの護衛。忙しいスコールを少しでも休ませようという学園長なりの気づかいだった。 「セレネすげーよな、機嫌悪かったおっさん達一瞬で笑顔にさせるなんて」 扱いに慣れればこっちのもんだ。セレネのご機嫌取りのお陰で今までもたもたしていた事柄もスムーズに片付いていった。 「まあ、慣れかな」 クスクス笑うセレネの隣でゼルはふと疑問を浮かべた。 「そういえばセレネ、スコールに会わなくて良いのか?」 二人がこちらに来てからスコールの仕事は極端に減ったはずだ。スコール一人で行っていたことを三人でやっている今、必然的に空き時間は増えて会う時間はある。 「うん、まあ…わたし忙しいから」 少し嫌味たらしくシニカルに笑って見せるとゼルは面白そうに笑った。それがなんだか可笑しくて、あまり人がいない静かな夜の空に二人の笑い声が響いた。 「っ…」 そこに自分たち以外の足音が聞こえて、セレネが振り返ると。 「スコール…?」 暗闇でよく見えないが、確かに白いファーのついたジャケットの後ろ姿が足早に去っていくのが見えた。 「え?スコールいたのか?」 「……ごめん、ゼルちょっと…」 パタパタとスコールが消えた方に数歩歩いてゼルに向き直る。 「行ってくる」 * 「スコール!」 足の早さはタークスの中でもまあまあくらいで、スコールの早足くらいであればなんとか追い付けた。 「ね、スコールってば」 けれど名前の主はご機嫌斜めなのか、一向に歩く速度は落とさずそれどころか徐々に早くなっている。仕事の後に長い距離走ってきたセレネもいい加減疲れてきて苛立ってくる。何を怒っているのだ。元はと言えば怒りたいのはこっちの方で…いくら忙しいとはいえ一ヶ月近くほったらかしは酷くないか。 セレネはぐっと立ち止まった。 手に持っていたガンブレードを握る拳に力が入る。スコールは気付かず歩いていく。たまりにたまった寂しさがついに溢れ返って、怒りに変わった。 「スコールの……」 ガンブレードを逆向きに握って柄の方を前にする。片足を上げてさながら野球の投手張りのフォームで、 「ばかあああああっ!」 槍投げの如くそれを投げた。 勢いよく飛んだそれは綺麗な放物線を描いてスコールの、後頭部に見事に命中。 ゴン、だとかそんな可愛らしい音ではなくもっと痛そうで可哀想な音だった。 「っ……!なっ!…な!」 驚きなのか痛みなのか、大きく目を見開いて痛む後頭部を抑えたスコールが振り向くと、一球入魂したのと走ってきたのではぁはぁと荒い息をするセレネの姿があった。 「っ…!」 相当痛かったのだろうか。半分涙目でセレネを見つめるスコール。 「スコールのばか!あほ!あんぽんたん根暗!中二病のロンリーライオンがあ…!」 思い付く限りの罵声を喚いてぺたりとその場に座り込むセレネ。スコールはまだ痛そうに後頭部を片手で抱えている。 「っなんだいきなり…、ガンブレードを投げるやつがあるか…」 狼狽えているのか呆れてるのか。 取り敢えずセレネの元まで歩くスコール。その間にセレネはぐずぐずと泣き出していた。 「スコールのばか!ばか!もう知らない!リノアと仲良く一生エスタで暮らしてたらいいよ!わたしなんてどーせ一瞬の気の迷いだったんだあ!違う世界から来てたまたまガンブレード使いだったから珍しくて興味がわいただけの遊びだったんだあー!」 うわーん、とでも擬音が付きそうな程に泣き散らすセレネの声は静かな公園に響く。どうしたものかと考えていたスコールはセレネの前にしゃがみ込むとゆっくりその体を包み込んだ。 「ばかばかっ、あっちいけー」 「行ったら泣き止むか?」 優しい手付きで頭を撫でられてその大きな手に安心してしまう。いつぶりだろうか、この温かい腕に抱かれて彼の匂いのする胸に飛び込みたかった。 「…ばか…」 「ばかでいいから、…どうしたんだ」 宥められてしまって情けなさと甘えたい気持ちがぶつかりあう。けれど、今はアーヴァインに言われた通り素直に甘えるべきなんだろう。 「……寂しかったよ…」 |