brand new time.(2/2)



報告書や調査書をまとめる時だいたいセレネは図書室にいる。欲しい資料があったらすぐ取りに行けるし何より静かな落ち着いた空間が気に入ってるだとかで。だから大抵彼女がいなくなったら図書室に行けば窓際の陽の当たる席で熱心に筆を走らせるセレネが…

「……いない」

俺としたことが読み違えたようだ。
彼女の特等席の窓際にはどこから入ってきたのが茶色い毛並みの猫が丸まっていた。日向ぼっこでもしてるんだろう。なんとなく近づいてみるが目覚める気配はなかった。

「………」

ガラス張りの窓から太陽の光が控えめに降り注ぐ。今日は比較的過ごしやすい陽気だった。真夏だというのに連日続いた暑さは先日降った雨ですっかり冷まされてしまったようで。

すやすやと眠っている猫の体が上下に上がったり下がったりしている。そういえばこの猫の毛の色、セレネの髪の色に似てるな。そう思うとなんとなく右手が勝手に猫に向かっていく。人慣れしているのか本当に起きる気配はない。するりと猫の背を撫でる。

「寝付きの良さまでセレネに似てるな…」

彼女も寝ている時に撫でたり揺らしたりしてもなかなか起きない。勿論朝起こす時は困るのだけれど。あまりに気持ちよさそうに寝ているので起こすのを躊躇ってしまう。

「……ほんとに、なんで今日はこんなに暇なんだか……−−」





*





「…ル、……コール、」

肩を大きく揺すられて真っ暗だった視界がゆっくり開けていった。

「スコー…、スコール!」
「!」

ぼやけた焦点をなんとか合わせようとする。さっきの猫みたいな色がぼやぼやと合わさって、

「やっと起きた」

セレネがこちらを覗き込んでいた。

「セレネ…?」

重たい頭を起こして片手で抱える。寝てたのか、俺。机の上にいたはずの猫は既にいなくなっていて、窓の外もすっかり夜の暗闇に支配されていた。

「も、風邪引くよ?こんなところで」

額を人差し指で控えめに押される。何してたんだったか…ああ、暇すぎて部屋を出て、キスティスに会ってセレネを探しに図書室に来たのか。で、そこにたまたまいた猫を観察してたらつられて寝てた訳か。

「仕事終わったからスコールの部屋いったら、スコールいないんだもん」
「………」

まだ頭が上手く働かない。ゆっくりセレネの言葉をかみ砕いて考える。そりゃ、図書室にいたんだ。部屋に俺はいない。でもそれはセレネを探しに行っていたからであって、俺が悪い訳じゃない。

「せっかくさ、朝早くから朝ご飯掻き込んで仕事終わらせたのに」

そう、朝っぱらからセレネが先に食堂行くなんてメール寄こしてくるから。それで今日あるはずだった任務が無くなって、他にやることもなくて。

「………」
「今日スコールの…っん」

知らなかった。
心を亡くすと書いて忙しいと読むけれど、もっともなんじゃないかってぼやけた思考で納得する。朝から会いたかったセレネが目の前にいる。そう思ったら自然と手が伸びて彼女を引き寄せていた。
何か言っていた途中だったけれどそれを遮るように彼女の唇を塞ぐ。瞬間的に驚いて目を見開くセレネ。けれどやめてやらない。椅子に腰掛けている俺に対して隣で立っていたセレネは体制的に腰を折り曲げている。

「ちょ、いきなりどうしたの?」
「したいからした」

唇を解放してやって代わりに腰を引き寄せて縋り付くように腕を絡める。ぱちぱちとセレネが瞬きを数回繰り返しながら俺を見る。ああ、さっきの猫も目が大きそうだったな。

「なんかスコール…甘えんぼ?」
「寝起きだからだ」

否定はせずに彼女を抱き締める。ゆっくり背中にセレネの細い手が回ってくる。

「ね、今日スコールの誕生日なんだよ?」

そういえばそうだったか。

「だからわたし早く仕事終わらせてスコールと過ごそうって…」

だから朝さっさと食堂行ったのか。もしかして今日一日俺に仕事も任務も回ってこなかったのはささやかな休暇のつもりだったんだろうか。

「でもごめん、結局こんな時間まで終わらなかったね」

さらりとセレネの指先が髪に絡んでくる。見上げると申し訳なさそうにセレネが見下ろしていた。

「別にいいさ」

今こうしてセレネが目の前にいて腕の中にいるんだから、さっきまで堂々巡りしてたネガティブな考えなんて一気に吹っ飛んでいった。結構ゲンキンだな俺も。

「ね、だから部屋戻って一緒にお祝いしよ?急いでケーキも作ったからさ」

ふわりと蕾が綻ぶみたいに微笑んだセレネの顎を引いてもう一度唇を重ね合わせる。啄むように何度かそうして、鼻先がくっつく距離で彼女を見つめて言った。

「ケーキよりセレネが食べたい」


暇すぎるプレゼントを貰って気付いた大切な時間の過ごし方。


*fin*



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