きみのなまえ(3/5)



さて森に来たのはいいが…。

「ねえ、えーと、あー…」
「スコール」
「そうそう、スコール!」

また忘れた彼の名前を呟くと呆れたように溜め息をつかれた。

「さっき教えたばかりだろ…」

ライトニングの名前を覚えていた時みたいに恨めしそうに横目でみられる。
いや、ライトニングは何故か覚えているんだ。同じ女だし、うん。

「ごめんごめん、うん、でスコール」
「なんだ」

わたしは近くの木の幹のところにしゃがんでスコールを振り返った。鬱蒼と木が生い茂っていて、少しむしっとした森。そこで木の根本を指差して言った。

「このキノコ食べれるかな?」
「………」

わたしが指差した先を見て彼は黙り込むが少ししてから口を開いた。

「俺も保障は出来ないぞ?」
「だよねえ…」

森の図鑑でもあれば別だがそんなものはない。魚のホイル焼きにキノコを入れたら美味しいんだけどな。玉ねぎは確か誰かが拾ってきたのがあったし、やはりキノコが必要だ。

「仕方ない、えーと、…」

キノコから視線を彼に変えたところでまた思考がフリーズする。ちょっとの間彼を見つめていると…

「…スコール」
「あ、そうそうスコール!」

なんでだろう。覚えられない彼の名前。なんか忘れやすい名前というか…その、申し訳無いが人間には苦手な行や発音みたいなのがあると思う。わたしはそれが彼の名前ドンピシャみたいだ。

「いい加減覚えたらどうだ」

ちょっと可哀想で申し訳無いので……本当に、本当に、早くキノコを採取して宿営地まで行こう。





*





あれから取り敢えずキノコと食べられそうな果実や野草をゲットして、ライトニングと3人でなんなく本日の夕飯を仕上げたわたしたち。バッツとジタンの釣ってきた魚は意外と美味しくて、キノコもどうやらフリ…なんとかさんによれば食べられるらしく、すぐにその二つはホイルで優しく熱されました。あとはまあ適当に。ライトニングは元より、意外と…えーと、す……くんが包丁の使い方が巧いと言う。

「えーと、…」
「だからスコールだ、」

本日だけで何度彼は自分の名前を口にしているだろうか。「わたし」とか「おれ」が一人称であれば自分の名前なぞ滅多に呼ばないはずだ。ごめんねえーと、スコールくんよ。

「どうして俺の名前だけが覚えられないんだあんた」

そうは申されましても…。
こればっかりは本当にわたしの海馬にですね、いやわたしこんなキャラじゃないんだけどな。冒頭の戦闘シーンもっかい持ってきてくれないかしら。

「インパクトに欠けると言うか…」
「どんなインパクトだよ」

今は幾つか張ってあるテントの近くで焚き火をしながら見張りをしている。

「セレネは名前覚えるのが得意じゃないのか?」

一緒に見張り役のライトニングが焚き火に薪を足しながら聞いてきた。晩御飯もこの3人に作らせて最初の見張りまで押し付けるとは何事なんだろうか。

「得意じゃないというか、なんか彼…えーと、」
「スコール」
「そうスコールだけ忘れてしまうというか…」

なんか漫才みたいだぞ?とライトニングに鼻で笑われてしまった。自覚はありますごめんなさい。





「セレネ、少し向こうの辺りを見てきてくれないか?」

元々無口と言えば無口な3人だった。
たまに他愛ない世間話をしたり、わたしより先にこの世界に来ているためライトニングとスコール?は元の世界の記憶が少しだけある。だから彼女たちの元の世界の話を聞いたり、気が付けばそろそろ見張り役交代の時間が迫ってきていたため最後にもう一度周辺を見て回ることにした。

「わかった。二人はなんかあった時のために一応ここにいてね。」

短く告げて腰の銃だけ確認してわたしは焚き火を離れる。座ってるだけで退屈だったし、少し散歩がてら歩こう。交代のメンバーが来たら二人は先に寝るだろうし。

「わ、綺麗だ」

そんなわけで月の渓谷辺りまでわたしは歩いてきていた。それまでイミテーションやら危険そうな人には会っていない。夜空に大きく浮かぶ月が綺麗なようでどこか不気味そうな雰囲気を醸し出していた。

「…戻るのかな、わたしの記憶」

そう一人ぽつりと呟いた。

「戻るとも」

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