きみのなまえ(2/5)



苦笑いして彼を見る。よく見るとなかなか整った顔立ちで青い瞳は綺麗だし、かっこいいではないか。さっき不敵に微笑まれた時はよく見ていなかったが。

「…あー…えーと、…」

ハンサムだねと言おうとしたところで言葉が詰まった。そういえば彼の名前を忘れてしまっていたじゃないか。これはまずいのではないだろうか。

「えーと、…す、すー…」

なんだか「好きです」とでも言おうとしているみたいで馬鹿みたいだ。

「なんだ?」

しまった、怪訝そうに見つめられる。
あなたの名前が思い出せませんなんて言ったらショック受けるよね絶対。確かさっきこの子わたしの名前呼んでたもん。覚えられてるよ絶対。

「セレネ?」

ほら!ほらほらほら!
嫌な汗が背中をだらだら流れる。思い出せわたし!スで始まる何かだ。す、す…確かどこかで伸ばす感じの名前だった。す、す…

「スシボーイ!」
「は?」

違うそれは日本人を馬鹿にするときに使うやつだ。それにこのイケメンがスシボーイなんて名前だったらお母さん泣くわな。

「す…」
「………」

スコット、スコットくん。違う…でも惜しい気がする。す、す…ストライク…バッターアウト!

ああだめだ、一ミリも思い出せない。
それだけ彼の存在感が薄かったのか、わたしの海馬が悪いのか。正直に謝って名前を聞こう。それが一番穏便に済みそうだ。

「あのさ、」
「スコール」

どうしようもなく申し訳なさそうに言葉を発すると、静かにでもはっきりと彼の声が耳に入り込んできた。

「え?」
「スコール。名前だろ?俺の」

スコール!そうだスコールくんだ。
言われてはっとして手を合わせた。

「ご、ごめん…そうだスコールだ」

なんでわかったのだろう。
わたしの心の葛藤が漏れていたわけではあるまい。あ、けどスシボーイは口にしてしまっていたが。

「なんでわかったんだ、って聞きたそうな顔してるな」
「ええ!?」

ぱちくりと目を瞬いてスコールを見る。
どうしてわたしの言いたいことがわかるのだ。特殊能力?

「あんた…いやセレネ。
取っ付きにくそうに見えたけど、意外と顔に出やすいんだな」
「うそ」
「本当だ。当たってただろ?名前も今のにしても。」

にやりと口許だけ歪めるスコールの顔が綺麗だった。なんか…楽しまれているみたいだ。悔しいけれどかっこいいから許そうか。

「そんなに表情に出ないって…」
「いや、丸分かりだ」

確かなんか表情に出てはまずい仕事柄だったような気がするのだが、そういう切り替えは出来るのだろうか自分。そんなことをだらだらと会話していると、聞いたことある足音がこちらに向かってきて二人で足音の主を見た。

「ここにいたのか」
「ライトニング?」

わたしたちを探していたのだろうか。それにしては珍しい人物に思わず名前を口にしていた。

「彼女の名前は覚えてるんだな」

間髪入れずに恨めしそうにスコールに言われた。ライトニングは怪訝そうにスコールとわたしを見る。

「なんでもないよ!あ、何か用?」
「ああ…、今晩は向こうの山の谷でテントを張ることになった。それで、夕飯係がわたしとおまえたち二人に押し付けられたんだ」

なるほど。
ライトニングの話によると野宿の話になった時にわたしとスコール含めライトニングもその場にいなかったらしく、バッツとジタンの「その3人でよくね?」発言から夕飯係があっさり決定したとか。

「またあいつらか…」
「モテる男はつらいんだね」

あはは、と笑ってそう言うとスコールの溜め息が聞こえた。

「でもまあ、セレネは確か前も当番だったよな?」

特に気にした様子もなくライトニングが言う。確かにわたしは普通に料理くらい出来る。ライトニングだって何度か調理してたのを見たことがある。

「スコールも、準備くらいならやってただろ?」

問題ないじゃないか。と言い切ったライトニングにスコールと二人して頷いた。

「決まりだ。
じゃあわたしは少し川の方に行ってくるから二人は適当に何か食材集めてくれ」
「川?」
「さっきの二人が、川で魚が釣れるから今晩はそれをおかずにしようって…」

ああ、と納得。
しかし川なんかあったのか、ここに。

「じゃあ魚釣れたらホイル焼きにでもすればいいかな」
「食べれる魚だったら、な」

ライトニングが溜め息を一つ溢して「じゃあな」と元来た道を走っていく。バッツもジタンも魚が食べたいなら二人で係をやったらいいのに…。

「俺たちも行くか」

そんなスコールの声で取り敢えず食材の手に入りそうな森に足を向けた。

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