背徳のコンチェルト(3/5)



「ほう…
離さなければどうしてくれるんだ?」
「力付くで離させるまでだな」

セフィロスは可笑しそうに鼻で笑った。
するりと彼の指がわたしの首筋で踊る。喉を撫でたかと思うと片手で首を締め上げられた。

「っ…ぁ…!」

ゆっくりと両足が地面から離れた。

「っセレネ!」
「さあ、俺を殺してみろ」

残酷に笑う銀髪の英雄は酷く美しい。
彼に殺されるならば本望だろうか。
走って近付いたスコールの攻撃をひらりとかわして、片手で長刀を翻したセフィロス。スコールは寸ででそれを避ける。

「何故こいつを助けようとする?
こいつはおまえの敵だぞ。」

わたしに言ったのかと思ったが違ったようだ。スコールを邪魔そうに睨むとまた刀を一振り。

「あんたには関係ない」
「……ぁ、が…!!」

ギチギチとセフィロスの手に力が込められる。首の骨が折れそうだ。上手く息が吸えなくて、脳が圧迫される様に痛む。声にならない声を発して、意識が遠退き始めた時ぐらっと体が揺れた。

「っ……!!」
「セレネ!」

勢い付けてわたしの体が宙に放り投げられた。かと思ったら何かに当たって地面に直接ぶつかるのは避けられた。手を離されたと同時にひゅっと空気の塊が喘ぐしかなった喉に入り込み、気管を忙しなく行き来した。

「セレネ、おまえの罪は決して消えない
おまえがおまえである限りな。」

シュン、と銀の髪を靡かせて残忍な程に美しい英雄は消えた。

「セレネ、…セレネ!」

投げ飛ばされた時にどうやらスコールに受け止められていたらしい。セフィロスが消えたとわかるとスコールが血相を変えてわたしを呼ぶ。

「へ…き、」

大丈夫だと手を上げて答える。彼はほっとしたように表情を元に戻した。

「なんで助けようとしてくれたの…」

息が大分整ったタイミングで疑問をぶつけた。わたしを助けても彼に利点など無かっただろうに。クリスタルの在処さえろくに話そうとせず戦いもしないのだから。

「…逆に聞くが、なんで俺を助けた?」

てっきり答えが返ってくるかと思っていたら、疑問に疑問が返って来て目を瞬いた。けれどすぐにそれを崩して嫌味な笑みを口許に乗せて言った。

「助けたんじゃない…」

今度はスコールが目を瞬く。
顔に掛かっていた髪をそっとグローブをはめた手で退けられた。

「助けたんじゃ、ない」
「じゃあいったい…」

怪訝そうに表情を伺ってくるスコール。

「自分の…わたしの、ため」
「あんたの…?」

ああもうだめだ。楽しみだなと思いつつ自我を保つための遊び道具を手放さなければならないようだ。本当に残念。

「自我を立たせるためだった」

ゆっくりと開いた唇は少しかさついていた。黙って聞く気なのだろう、わたしを抱えたまま見つめてくるスコール。少し視線が痛かった。

「はじめはどうして自分がカオスの駒に…って何度も思った。けど、元の世界の記憶を取り戻して、ああこれが正しいんだって理解した。
そうしたら、だんだん自分がどうしようもなく惨めに思えてきて、どうしようもなく無様でね。そんな時アルティミシアからスコールの話を聞いた。…正確には立ち聞きだけど。」

自分の名前が出たタイミングで一瞬スコールの瞳が揺れた。よく見ると綺麗な青い瞳だった。

「可哀想だと思った。
どうしようもなく可哀想で哀れな子だって、スコールは可哀想な子なんだって。
自分より可哀想で哀れな存在を見つけて近くでそれを嘲笑って蔑んで、そうして自分の自我を保ってた。だからあなたに近付いた。クリスタルの在処を知っているのは本当だったけど。闘う気も教える気も無かった。
だから、だからあなたが死んでしまっては、わたしは自我を保てなくなる。可哀想で哀れなあなたを蔑むことで生きていられたから。だから…」

「もういい」と一言遮られてわたしは話すのを止めた。がくりと首を垂らして、スコールの表情は伺えなかった。嫌われちゃったかな。そりゃそうだろう。最低な目で見ていたんだ、嫌われて当然だ。

「スコール、もう大丈夫だから離して。
あんまりわたしと一緒にいると、仲間にカオスと繋がってるんじゃないかって疑われ…」

体がギシッと軋んだ。
力一杯スコールに抱き締められた。

「スコー…」
「離さない」

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