世界の終わりのセレナーデ(2/2)



凛とした声にセレネを見ると、どこか真剣な表情でこちらを見ていた。あまりに力強い視線に捕らわれて、目が離せなかった。

「永遠の若さとか、永遠の命とか、永遠の愛とか。そんなの辛いだけだよ」

もう一度、確かに“つらい”と言い捨てるセレネ。

「人はね、過去や未来があるからこそ何かに頑張れるんだと思うよ。」

険しかった表情がふんわりと和らいだ。
少しそんなセレネに見惚れているとゆっくり立ち上がって隣から離れてしまった。近くにあった温もりがなくなって少し寒さを感じた。

「ずっと与えられた今なんて、どこにも何にも進むことが出来ない苦痛……それこそ永遠に与えられる絶望だと思うよ」

哀しそうな顔で水平線の果てを見つめるセレネは何処か脆く、それでいて美しかった。

「愛にはきっと終わりがある。人の命が尽きた時その二人の愛の時間は終わる」

その後の愛はどこかで続いてるかもしれないけど、と小さく呟いてセレネは続ける。

「でも、命にも愛にも“終わる未来”があるから、だから“今”を精一杯生きられるし、“過去”を生きてこれたんだと思うの」

一生懸命セレネの言葉を頭で噛み砕いて理解しようとしていたが、不思議なことに自然と頭に入り込んでくる。月明かりに照らされるセレネが綺麗だなんて考える余裕まで出来て俺はそのままセレネを見つめていた。

「だから、希望を持てる“未来”も頑張れる“今”も思い出して笑える“過去”も無い世界なんて、絶望と、同じでしょう?」

くるっと振り返ったセレネの真剣な表情にまた縫い付けられて動けなかった。

「確かに…」

ぽつんと肯定の言葉を洩らすとセレネが少し微笑んだ気がした。砂浜に座っていた体勢から立ち上がってズボンについた砂を払う。

「それに…」

そうしていると不意にセレネが近付いてきて、にこっと笑顔で見つめられる。

「本当に世界が終わる時には、スコールと一緒にいたい」

どくん、と左胸が高鳴った。

「元の世界に戻れなくていいのか?」

驚きながらセレネに返すとゆっくり頷いて手を取られた。

「わたしはスコールとの今と未来を大切にしたいから、だから世界の終わりはスコールと一緒がいい」
「セレネ…」

時間圧縮と世界の終わりを関連付けていたなんて俺の思い違いで、あの質問の真意はこれだったのか…。

「世界の終わりを見る時は、ちゃんとスコールといつもみたいに寄り添って見てたいから、だから、時間圧縮なんてさせない」

何かを決意したように、セレネは言葉にして真摯に俺を見ていた。真っ直ぐすぎるその眼差しに眩みそうになる意識を誤魔化すように、セレネをそっと抱き締めた。

「俺でいいのか、世界の最期なのに」
「スコールがいい…」

間髪入れずに返ってきた言葉に自然と笑みが零れてしまう。少し冷えたセレネの頬に手袋を外した手で触れる。ひんやりとしていてなんだか可哀想になって暖かかった両手で挟んで目を合わせた。

「冷えてる」

思い出して慌てて自分の着ていた上着を脱いでセレネの肩に掛けると胸にすり寄ってくる。そんな彼女の行動が無性に可愛く思えた。

「スコールが寒いよ?」
「俺は大丈夫だ」

こうするから、と言ってセレネを自分の上着ごと抱き締める。セレネとの密着感が先程より減って幾分か残念だったが風邪を引かせるよりいいだろう。幸せそうな表情で抱き返されて胸が温まる。

「さっき、」

抱き締めたまま小さく言えば、少し不思議そうな顔で見上げられてそっと髪を撫で付けた。

「愛にも終わりがあるって言ったよな」

先程は黙って頷いたけれど、実は少しだけそこの部分には同意していなかった。

「確かに愛にも終わりはあるのかもしれない」

永遠の愛、だなんて陳腐な台詞だ。
易々誓えたもんじゃないし未来には何があるかもわからない。けれど…

「俺のセレネへの愛は、終わりなんか無い。あってたまるか…」

少し強くセレネの肩を抱くと、驚いた二つの大きな目に俺と、白い満月が閉じ込められていた。

「子供っぽかったら笑ってくれ。
だけど、陳腐でも気障でも、俺はセレネに永遠の愛を誓うさ」

言いながら実際笑われたら少し傷付くけれど。自分自身笑い出しそうな陳腐な台詞だった。
それでも、

「ありがとう、スコール…」

君は違う意味で笑ってくれたから。

「俺も、世界の終わりはセレネと見ていたい…」


誓いのキスを、君に贈る。
少しひんやりとした君の唇を温めるように、何度も何度も啄んで重ねて。唇が離れる頃には二人共、暑いくらいにぼんやりと思考が停止して息が上がっていた。


もしも終わる世界を見ているなら、
その日も君と、こうして…


*fin*



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