wish on a star.(1/4)



もう何度目になるのだろう。
繰り返される戦いの中で、力尽きて消えて行く仲間を何度も見てきていた。そんな中でもタークスで養った剣の腕のおかげか、わたしはなんとか生き残れているのだけれど。長い戦いを続けて行く度に少しずつ思い出した自分の世界のこと。そして、思い出したくなかった出来事まで思い出して、現実に討ち震える自分がいた。


wish on a star.






「ここにいたのか」

月の渓谷で星を見ていた。なんとなく、現実がイマイチ受け止め切れなくて。静かな空気を震わせて聞こえた低く透き通った声は聞き間違えるはずの無い彼のもので。

「クラウド……」

今一番会いたくないようで、とても会いたかった人物だ。彼はついこの間コスモスの戦士として導かれたばかりだった。だから、知らない。

「なかなか戻らないから、呼んできてくれと頼まれたんだ」

元の世界で彼とわたしは同じ神羅で働く仲間だった。部署は違えど、共通の友人を通して自然と仲良くなっていたのだ。たまに同じ任務に赴くこともあった。

「ごめん、わざわざありがとう」

はにかんで彼の方を見て返すと、クラウドはこちらを見つめていた。彼の纏う漆黒のそれのせいか、月明かりでも闇と混ざりあって消えてしまいそうな儚い雰囲気は、わたし自身知らなかった。

違うのだ。自分の知ってるクラウド、という男は。もう少し背が低かった。もう少し柔らかい雰囲気で、もう少し瞳が大きくて、もう少しどこか頼りなかった。

「セレネ?」
「あ、ごめん」

気が付けば彼を睨むように凝視してしまっていたようだ。怪訝そうに名を呼ばれてしまった。

(生きてたんだね)

そう、そして彼は死んだと思っていた。

相次ぐソルジャー1stの裏切りに、かの英雄セフィロスまでもが掌を返した。セフィロス達と同じ任務に就いていた彼……クラウドはソルジャーであるザックスと共にセフィロスを止めようとして、犠牲になった。

(そう、聞かされたけど)

ザックスの亡骸はこの目で確認した。居たたまれなかった。信じられなくて、神羅をこのまま信じていいのかと疑いさえした。けれど

(君の遺体は見つからなくて、もしかしたらって思ってたんだ)

人殺しなんて出来そうにないくらい無邪気に笑っていたクラウドの顔が脳裏に焼き付いていて、毎晩毎晩うなされた。好きだったんだ。優しい彼の性格が。純粋で真っ直ぐな、彼の瞳が。

「じゃあ戻ろっか」

立ち上がってくるりと方向を変えたところで、今度はクラウドにじっと見つめられる。

「なあに?」

覗き込むようにして彼の表情を伺うが、イマイチ読めない。今までならこんなことはなかったのだけれど。

「セレネは、」

静かにクラウドの声が伝わってくる。身長も雰囲気も自分の知っている彼とは少し違うけれど、声は聞き慣れた心地の良いままだった。

「セレネの元いた世界は、」

どきりと左胸が跳ねる。
ここに来たばかりでまだ何の記憶も無いだろうに、彼の口からそんな言葉が出るとは思っていなかった。

「どんな……世界だった?」

さて、なんと返そうか。
クラウドを伺うが何かを悟ったわけではない純粋な疑問からきた質問のようだった。少し考えてから口元に笑みを乗せると思ったより自然に言葉が出てきた。

「それは君が一番よく知ってる」

意地悪かな。でも本当のことなんだ。わたしの住んでた世界。それは君が一番よく知ってる。これからわたしが歩む運命も、起こる出来事も。きっと君は、乗り越えてきたんだ。

「……俺が?」

困った顔にしてしまって、ごめんごめんと軽く謝ってもう一度クラウドを見つめた。

「記憶、無いんだよね。意地悪してごめんね。わたしの住んでた世界は、悲しいことがたくさん、溢れてた……かな」

楽しいこともきっとたくさんあった。けれど、ここにきてゆっくり思い出した記憶の欠片たちはどれも悲しみに染まったものばかりで、どうせなら何も思い出さないままここで力尽きたら良いとさえ考えていた。

(君を失った悲しみに堪えられなくて、楽しかった思い出なんて全部忘れてたんだよ)

けれど戦いをこなす内に鮮明になる元いた世界の記憶。そして思い出した君の存在。また絶望に打ち拉がれようとした時、君は流れ星みたいに急に降ってきた。

(きっと、いや多分、わたしと今の君は、世界は同じでも違う時代から呼ばれたんだ)

自分より何年か先の時代。わたしの未来を生きていたのだろう。今目の前にいる彼は。

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