My Fair Lady.(1/3)



実はあまり社長が好きではないのだ。



My Fair Lady.





そんなこと声に出して言えないけれど。
だから今回の任務も正直レノやルードに変わって欲しかったし、ツォンさんにもお願いした。イリーナが代わりでも良いんじゃないかと。

『いや、セレネでなくてはダメなんだ』

心なしかツォンさんが困った顔をしていたように見えてわたしはそれ以上何も言えず、了解せざるを得なかったけれど。

今になってあの時やっぱりお腹が痛いとか言って任務をサボるべきだったと若干の後悔をした。こんな事になるなら。

《セレネ、状況は?》
「此方は何も異常ありません。社長も無事です。念のため社長に安全な場所に避難して頂こうと思ってるんですが……」

袖口についているマイクに話しながら辺りを伺う。重役フロアと言うだけあってパーティー会場には生憎不審人物らしき輩は見当たらない。強いて言うなれば華やかなこの席に女にも関わらず不釣り合いな黒いスーツを着ているわたしが一番不審者に近い。
今日この会場では何がめでたいのか神羅創設記念パーティーが行われている。

《わかった。各フロアの安全が確保できたら社長を避難シェルターまでお連れしろ。それまでそこで待機だ》

ツォンさんの命令にこの場に及んでも背きたい気持ちがあったけれど、傍らで緊急警報の音に慌てふためくパーティー客を横目にグラスを揺らす社長と周囲を交互に見てため息混じりに呟いて通信を切った。

「了解です」

今まで煌びやかで優雅な立ち振る舞いをしていた貴婦人たちがおろおろと右往左往している様はどうにもこうにも滑稽で面白い。そんな風に思う自分は少し子供じみているが。
見張りの神羅兵達が声を張り上げて客人たちを宥めている。そんな様子に自然と口許に笑みが乗ってしまった。

「そんなに面白いか?」

いつの間にか隣にいた社長に見つめられていた。はっとして表情を引き締めるが既に遅かっただろうに。

「いえ、すみません」

何に対して、多分貴婦人たちを馬鹿にした態度について謝ったのだと思う。まあ一応社長の客人なわけだし。

「ああも取り乱すと不様だな」

一瞬自分の耳を疑ったが社長の顔を盗み見て悟る。ああ、この人も父親の代から続く付き合いのこの部類の人間は嫌いなんだと。けれど。

「社長はもう少し取り乱してください」

こうも普通にグラスを煽られててはこっちが緊急事態だと言うことを忘れそうになる。

「私にあの中に入れと?」

社長がまたちらりと一瞬だけ神羅兵に宥められている客人たちを見た。そんな返答に思わず想像してしまってわっと沸き上がる笑いを堪えきれなかった。

「失礼だな。減給されたいか?」
「っい、いえ、すみません」

本日二度目の謝罪の言葉を口にする。もう一度表情を引き締めて取り敢えずパーティー会場から社長を連れ廊下に出た。

パーティーは中頃まで順調だった。
ただ神羅創立記念日だ。記念日と言えど神羅をよく思っていない連中には悪魔の日でもあろう。パーティー中は社内全域が厳戒体制。勿論一般兵士だけでなくタークスも。しかしながら予想通りと言うかなんと言うか。どうやら一般兵が見張っていた裏口から何者かの侵入を許したらしい。今わかるのはそれだけ。

「だからやだったのに」

わたしの持ち場はパーティー会場。だったらまだよかった。会場は一般兵が監視して、わたしは天下のルーファウス社長の護衛だ。それはすなわち緊急事態の時に片時も離れず社長を護らなければならなくて。

《セレネ、65階から上のフロアの安全が確保できた。すぐに社長をシェルターへお連れしろ》

またため息の出そうなタイミングでツォンさんから通信が入る。シェルターの場所を説明されて短く返事をすると、念のため愛用のガンブレードを片手に社長に言った。

「緊急避難シェルターまで社長をご案内します。どうか暫しご辛抱を」

そう言うと社長の前を歩いて非常階段に向かった。

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