![]() ![]() 「さあほら、みんな心配してるかもしれないから、行こ?」 少し混乱させてしまったようだから、まぎらわす様に無理矢理話を終わらせて踵を返した。 「っセレネ、」 「え、わっ……!」 けれど歩き出した時にいきなり腕を後ろに引っ張られ、バランスを崩したわたしはそのまま後ろに倒れ込む。背中に来る衝撃に備えたのだけれど、 「悪かった。平気か?」 どうやらクラウドに助けられたらしい。彼に後ろから抱かれていた。ひんやりとした場所だったからか、やけにクラウドの体温が温かく感じた。 「ありがとう、だい、じょぶ」 向き直ってお礼を言うと、綺麗な青い瞳と自分のそれがぶつかって思わず見とれてしまう。月明かりにキラキラ光る金の髪が綺麗だ。 「セレネ……」 そのままクラウドに抱き締められる。軽くだったが、成長した彼に慣れていないわたしの心臓は早鐘を打つ。 「アンタといると、変なんだ」 身長差から丁度耳元近くにクラウドの唇がある為、ダイレクトに聴覚を刺激される。彼の言葉を飲み込むのに少し時間が掛かってしまう。 「なんだか、懐かしいような……不思議な気持ちになる」 切なげにそう言われて、胸がきゅっと痛んだ。記憶は抜け落ちてしまっているが、感覚というか、体というか、覚えていてくれてるのだろうか、自分の事を。 「あと、酷く落ち着くんだ」 どきどき心臓が煩いけれど、どこか憎めないそれ。落ち着いて呼吸を一つすると鼻腔いっぱいに彼の香りが広がって、懐かしい匂いに涙が溢れそうになる。 瞼をゆっくり落としてクラウドの大きな背中に手を伸ばした。 *** 「だらしねーな、これだから都会人は脚力が足りないんだよっ」 ザクザクと踏み締める白い結晶の音に混ざって、楽しそうに悪態を吐く声が聞こえたような気がする。 けれど今は目の前の地面を踏み締めるのに必死で、それがどこか遠くの出来事に思えた。まさか自分に話し掛けてるとは思いもせずに。 「おまえ、結構体力あるんだな」 「俺も田舎の出なんだ」 ミッドガル育ちのセレネは到底、雪で埋もれた道を何時間も歩いたりしなかったし、ジャングルのような迷路を迷わず進んだりする野生の勘も持ち合わせていない。しかし数十メートル先を歩く二人は違ったようで、この大雪原の真っ白な雪道もへっちゃららしい。 最初に悪態を吐いてきたソルジャーのザックスは犬みたいにすばしっこく進んでしまう。 「っ……ちょっと、腰が……」 ある程度の体力はそりゃあ持ち合わせてる。タークスの任務は過酷なものが多いし、訓練だって散々してきている。けれど物事にはやはり限界があるわけで。 「大丈夫か?よかったら肩貸そうか?」 そんな有難い申し出に、声の主を見ると綺麗な金髪が靡いていた。ちらりと前方を見ると二人いたはずの人間が一人になっていて。彼はさっきまでザックスの隣にいたはずなのに。 「戻ってきてくれたの?」 驚いて目をぱちぱちさせると彼は可笑しそうに笑った。 「つらそうだったから」 そういうとセレネの片腕を取って自分の肩に回して、空いている方の手をセレネの腰に回してにこりと笑いかける。 「これなら少し楽?」 「あ、ありがとう」 体重を半分支えてくれているのでさっきより歩くのが少し楽になった。タークスとしたことが、一般兵に助けられてしまった。 「君、名前は?今度お礼させて?」 「お礼だなんて、そんな。気にしなくて良いよ。俺はクラウド」 多分そう、あの時既に、 *** |