![]() ![]() 「んん……や、しゃちょ」 「セレネ、」 聞いたことない甘いトーンで名前を囁かれた。ああ絶対反則だ。そんな愛しそうな声で呼ばれて従わないはずない。うっすらと開いた唇の隙間から躊躇いもなく社長の舌が入り込んでくる。顎を撫でていた手がゆっくり首筋を撫で、もう片方の手は後頭部に回される。 「しゃちょ……まっ、」 「ルーファウスだ」 有無を言わさない顔でそう言われてわたしは黙り混む。名前で呼べと言う事だ。けれど相手は社長。そんなこと。 「言えないのか?」 「っひゃあ!」 困惑していると腰から臀部を撫でられて変な声を上げてしまう。 「い、言います、言いますから……」 やや視線を外して意を決し、小さな声で言われた名前を口にする。 「……ルーファウス」 変な感じだった。 普段は絶対名前でなんて社長を呼びはしない。なのに何故か本人に呼べと言われて、呼んでいる。 「聞こえないな」 「んんぅ!」 しかし声が小さかったらしくまた唇を塞がれる。また舌が入ってきてわたしのそれと絡められて愛撫される。上顎を撫でられてだんだんと意識がふわふわしてくる。 「ルー……ファウス」 気が付いたら無意識に呼んでいた。 満足そうに歪むルーファウスの唇。それがまた近付いてきて何度も何度も口唇が触れ合って舌が絡み合う。 キスの力とは恐ろしいものでまた無意識に彼の首に腕を回していた。 * 「で、何でわたしなんですか」 「セレネ、おまえは本当に……」 机について組んだ両手に額をくっ付けて項垂れるルーファウス、いや社長。 「好きだからに決まってるだろう」 「は?え?誰が誰を」 項垂れる社長に慌てて視線を向ける。 彼からは少し怒ったような視線がわたしに注ぐ。 「わたしがセレネを、だ」 「社長がわたしを……へ?」 好きだから。誰が? 社長がわたしを。誰が? 社長、ルーファウスが。……え? 「えええええ!?」 「もっと色気のある声は出せないのか」 はあ、と溜め息が聞こえたがわたしはそれどころではなかった。社長がわたしを好き。ルーファウスがわたしを好き?そんなことこれっぽっちも考えていなかった。 「なんでだって、どうして、どこが?」 「そうやって飾り気の無いとこがだ」 ふっとルーファウスが笑う。 とても優しそうな、笑顔で。 「だから秘書も受付嬢も……」 「やっと気付いたか」 てっきりセクハラの延長線上だと思っていたさっきのセクハラ。あれはセクハラじゃなく愛情表現だったのか。なんだかそう知った途端顔がとても熱くなってくる。 「セレネ」 呼ばれてももう何も考えず素直に振り向けない。だって絶対またあの優しい笑顔でこちらを見ている。 「セレネ、」 多分振り向いたら最後、わたしは彼から逃げられない。けれど。 「返事を聞かせてもらおうか?」 その甘い声に誘われて、きっと完全にわたしの負けは確定している。 *fin* |