ラナンキュラスに恋をした(2/3)



「やはり逃げてるだろう?」
「逃げてません防衛本能です」
「それを逃げてるって言うんだ」

さすがに戦闘体勢に入ることは気が引けた。一応上司だし我が社の未来を担う有能な社長であるし。今社長が居なくなったら(わたしが倒した的な意味で)次期社長になる者はいないしそうしたらわたし路頭に迷うかもしれないし。

「飾り立てた魅力にはどうも心が動かなくてな」
「なんの話ですか」

社長が居なくなった未来(わたしが倒した的な意味で)をふと考えていると突然社長が口を開いた。しかもよく話の意図がわからない。

「秘書や受付嬢のことだ」
「ああ……」

確かに社長がこれだ。タークスだってエリート集団だし美形揃い。そうなると社内の乙女たちは毎日気合いを入れてメイクアップして勝負服を来て出勤してくるわけである。それが秘書や受付嬢となると社長だったり人と接する機会が多い。身嗜みには気が抜けない。

「それはつまり」

女子力がちょっと足りてないところが安心出来ていいと言う意味ですか社長?
え、そりゃあタークスは人と接しても3秒後にはその方は天に召されてるし、大体暗殺とか抹殺が多いから活動時間は夜中だったり明け方だったり、かと言ってオフィス勤務だとオフィスの場所は関係者以外知らないし守秘義務あるし。そりゃあ引き籠りかってぐらい人と接するのも少ないけど。わたしだってナチュラルメイクに気を使ってるし髪型だって1ヶ月に1回美容室行くし料理だって人並み程度に、血の臭いがついたらナチュラルな香水で隠すようにしてるのに!

「わたしの女子力足りないと?」
「誰もそんなこと言っていない」

あれ?そうなんですか?
一先ずぶちギレそうだったのを回避。
危うく社長が居なくなった未来(わたしが倒した的な意味で)が現実化するところだった。セーフセーフ。

「キツい香水の香りも厚化粧も好きではないと言ってるんだ」

そうならそうと素直に率直に言ってくれればいいものを。

「香水の香りが嫌だからわたしに仕事の見張り頼んでたんですね?」

確かにデパートの1階フロア的な香りの中ちまちまと執務するのは集中できなさそうだ。だとしたらツォンさんとか呼べばいいのに。

「セレネ」
「はい?」

呼ばれて社長を見ると少し呆れた顔をしていた。え?なんで呆れられた?わたし何か変なこと言っただろうか。

「おまえは本当に鈍感だな」

更には鈍感呼ばわりされる始末。
聞き捨てならない、けれどまたじわりじわりと社長がこちらに寄ってきて強く言えずにずりずりと後ずさる。

「しゃ、しゃちょ……」
「俺もとんだ小娘に振り回された物だ」

ピタリと背中に壁が当たる。まずい、そう思ったがすぐに社長の腕が顔の両サイドの壁に付かれて閉じ込められる。

「え、やだな、冗談は……」
「こら逃げるな」

サイドの腕を潜り抜けて抜け出そうとしたら顔と体を近付けられ叶わなかった。

「セレネ、こっちを向け」
「っ……嫌です」

例え社長命令でもそれは嫌だ。
きっと振り向いたらその綺麗な青い瞳に閉じ込められて何でも聞いてしまいそうだから。捕らわれて動けなくなりそうだから。

「仕方が無いな」

そう呟いたと思ったらすぐに額に温かくて柔らかい何かが触れた。

「っしゃちょ!?」

それが彼の唇だと理解した途端驚いて顔を上げてしまう。案の定、強い青の眼差しに捕らわれた。

「良い子だ」

ゆっくり顎を撫でられて端正な顔が近付いてくる。ギリギリではっとして目をキツく閉じると同時に唇に先ほど額に触れたのと同じ感触。

「ん、ふ……」

けれどさっきみたいに触れるだけで済まず角度を変えて唇を舌でなぞられる。とんとんとノックされて、口を開けと無言で命令される。

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