My Fair Lady.(3/3)



「おまえが神羅の社長だな!」

男はわたしを羽交い締めのまま社長に向かって怒鳴った。さしづめわたしは人質か何かだろうか。

「いかにも」

そんな簡単に肯定してしまうとこが社長らしいというかなんと言うか、そんな悠長なことは言ってられないのだが。

「しゃちょ、に、げて……」
「黙れ女!」

なんとか情けないながら社長に逃げてもらおうと声を上げたら男がナイフを喉に突き付けてきた。

「俺はアバランチと違う反神羅組織の一人だ。こいつを解放してほしかったら俺の言うことを聞け!」

馬鹿だ。
馬鹿だこいつ。言うことを聞いてほしかったらわたしじゃなく社長なり重役を人質にしろ。わたしなんかタークスと言ったってただの社員の一人。

「社長、気にせず逃げてください。すぐに主任が駆けつけるはずです」

喉が動いて刃先にあたる。
逃げろと言ってるのに社長はさっきからそこに突っ立っている。お願いだから逃げてください。

「しゃちょ、にげ……」
「この女がどうなってもいいんだな?」

だからどうなってもいいんだってば。
ため息をつきたいがこんなとこでそんなことする程空気は読めなくない。

「何が望みなんだ」
「話のわかる社長だなぁ」

男がにやにやと笑いながら社長を見る。なんで聞いちゃうかな社長。

「俺の町の魔晄炉の建設計画を即刻廃止にしろ!」
「……聞けないな」

そりゃそうだ。
これくらいのことで魔晄炉建設計画が廃止になるとは普通思えないだろう。

「ほー?じゃあこいつをどうしようがおれの勝手だからな?」
「………」
「よく見るとこいつ、可愛い顔してるじゃねーか。ボディーガードみてーだしもしかして社長さんの好みか?」

汚らわしく笑う男の声が不快だった。
なんとかして男の腕から抜け出さなくては。自分の武器を確認するとそれは社長の足元に転がっていた。隙をついて逃げ出すしかない。

「おい女、」

すると突然顎を捕まれて無理矢理男の方を向かせられる。これはもしかして。嫌な予感が頭を過り思いきり振り払おうとしたその直後。

パァンッ

乾いた銃声と赤いそれが飛び散った。

「汚い手でセレネに触れるな」

音と共に閉じた目を開くと、床に転がっていたわたしのガンブレードを構えた社長がいた。勿論射撃モードで。
隣を見ればさっきまで自分を拘束していた男が血溜まりの中倒れていた。

「しゃ……」
「怪我はないか?」

社長が男を撃ったことに驚いて呆然と立ち尽くしていると声を掛けられ慌てて社長を見る。

「すまないな、これを拾うタイミングを図ってたんだ」

これ、と手に持たされたのはわたし愛用のガンブレード。ああ、社長確かショットガンの扱いが上手いんだったな、なんて頭の隅で理解する。

「に、逃げてくださいよ!社長の身にもしものことがあったら」

はっとして告げると頭にぽんと手を乗せられた。

「セレネを置いては逃げられないな」
「なっ」

呆けているとふわっと胸に引き寄せられて、抱き締められていた。上品な社長の香りが鼻腔に広がる。

「言っただろう?
 護られてばかりでは退屈だと」

ぎゅっと抱き締められて完全に社長に体重を預けてしまっている。目の前の社長の行動に戸惑っているとくつくつと低い笑い声がした。

「あの、社長……」

どうしたらいいかわからずされるがままになっていると社長の長くて綺麗な指がゆっくり顎を持ち上げてくる。社長のアイスブルーの瞳と視線が絡む。

「セレネがいなくなったら私が悲しむ」

冷たい色の筈なのに、見つめられた社長の視線は穏やかで温かささえ感じられた。そっと頬を撫でられて、ゆっくり社長の顔が近付いてくる。

「しゃ、っ……」

社長、と咎めようとした声は楽しそうに歪めた唇に阻止されて、ルーファウスに飲み込まれる。
急な展開についていけないセレネは混乱して爆発しそうな思考回路でなんとか目を閉じる。決して深いものではなく、啄むように何度か角度を変えて堪能され暫くしてからやっと解放された。

「セレネ?」

しかしこんなことされて一体どういう顔で社長と目を合わせたらいいのか。セレネは咄嗟にそのままルーファウスの胸に額を押し付けた。

「なんで、こんな……」

ぽつりと呟いた声を聞き取ったルーファウスはまた楽しそうに唇を湾曲にする。

「わからないか?」

意地が悪い。わからないから困って聞いているのに。いや、わからないから?わかっているけど、理解できないから自信がないから聞いているのか。
セレネはルーファウスの白いスーツを遠慮がちに掴んだ。

「わたし、タークス……ですよ」

混乱していた頭でなんとか振り絞れたのはその一言だった。セレネに見えないところでルーファウスは笑みを深めた。

「社長がタークスに恋をしてはいけない、という決まりはうちの社には無かったと思うが?」
「っ……」

だから好きじゃないんだ。
いつも勝ち誇った様な笑みで、見つめられる瞳は冷たい筈なのにどうしてか温かくて。そのくせ若干ナルシストで俺様で、けれど紳士的で優しくて。
どうしたって敵わない。

「話の続きは今夜、
 落ち着いてからにするか」

バタバタと騒がしくなってきた廊下や外の景色から、はっとして顔を上げるとルーファウスと目が合った。


「今のセレネのこの顔を、他の奴には見られたくないからな」

真っ赤に染まった顔を慌ててふいっと反らしながら、セレネはシェルターに続くエレベーターにルーファウスを押し込んだ。

(だから、好きじゃないんだ)

辺りを確認してため息を一つ溢して、自分もエレベーターの中に入った。


*fin*



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