My Fair Lady.(2/3)



安全が確保できたと言うのは本当だったらしい。パーティー会場があったフロアにはモンスター愚か敵一人いなかった。

「静かだな」

そう呟く社長の通り、緊急事態には似つかわしい程の静けさが辺りを支配している。勿論緊急警報は無機質に鳴り響いているが。

「シェルターの入口が社長室にあるので一度社長室に……っ社長!」

真っ直ぐに歩いていた視線の先に人の気配を感じて社長を庇うように足を止めた。誰かいる。
ガンブレードの柄を握り直して神経を集中させた。

「っ!」

バッと曲がり角の壁から黒いローブに身を包んだ男が現れこちらに向かって発砲してくる。刃の部分でそれをすべて弾くと男に狙いを定めてトリガーを引く。

パァンッ

乾いた発砲音が鳴り響くと男から鮮血が散った。

「見事だな」

わたしのすぐ後ろで見ていた社長は何事もなかったかのように口を開く。それに何も返さず見えないように苦笑して見せた。

「ツォンさん、不審な男がいて発砲して来ました」
《社長は?》
「無事です。男も始末しておきました」
《わかった、すまない。セレネは引き続き社長とシェルターに向かえ》

動かなくなった男を見下ろしてまた返事をすると不意に社長が言う。

「護られてばかりというのも退屈だな」

頭を抱えたくなる発言に、社長をじろりと見る。確かにこの人も身体能力が良いらしく結構強い。けれど自分の立場を自覚してほしい。

「あのですね、あなた社長なんですよ」

思わず口をついて出てしまった。

「社長が自ら敵に立ち向かって、もしもの事があったらどうするんですか?誰が会社を継ぐんですか……お子さんいないでしょ」

ただでさえちょっと前に先代の社長殺されてるんだから。

「それに、社長がいなくなったら社員も悲しみますよ」

主にミーハーな女性社員が。
勿論口には出さないそんなこと。
そう言って社長の隣に並んで避難シェルターに向かうよう促す。前後確認しながら非常階段の扉を開くとひんやりと少し冷たい空気が流れ込んできた。

「エレベーターは危険ですから、階段で我慢してくださいね」

集中して階下の音と上の音を聞く。下は少し騒がしいが上は大丈夫そうだ。社長の背に軽く手を置いて急ぎ足で階段を上がる。一段一段、上がる度にきょろきょろと意識をあらゆる方向に向ける。66、67と順調に進んで行くと漸く最上階の社長室フロアに到着する。

「セレネも」
「え?」

中の様子を確認しているとまた不意に社長が口を開いた。名前を呼ばれたのでなんだと社長を振り返りじっと見つめる。

「セレネも、私がいなくなったら悲しむか?」

笑い飛ばそうにも真剣な表情で見つめ返されて出来なかった。返答に困ってそのまま目をぱちぱちとしている時。

「っ!」
「セレネ!」

社長に気を取られていて中の様子なんかすっかり忘れていた。不意に乱暴に羽交い締めにされて部屋の中に引きずり込まれる。首をギチギチと腕で絞められて持っていたガンブレードが床に落ちた。

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