wish on a star.(3/4)



「セレネ」

次元城付近で空を眺めていた時だった。澄んだ汚れのない青い空は、どこかあの日を思い出して嫌だった。友人でありソルジャーだった彼の亡骸を見つけたあの日を。
それでもぼうっとその青い空を見つめていると、不意に名前を呼ばれた。

「ライト」
「ここにいたのか」

振り返って声の主を呼ぶと、セレネが腰掛けていた隣に並ぶライトニング。どこか聞き覚えのある台詞に思わず笑みを浮かべると、怪訝そうに見つめられる。その表情さえ彼と似ていていっそう笑みが深まってしまう。

「なんで笑うんだ?」

何も知らないライトニングは困ったような拗ねたような表情でセレネを見た。

「ううん、ごめん。なんでもないよ」

笑いながら言っても足りない説得力。けれど渋々と言った感じではあったが追及するのは諦めてくれて、セレネはライトニングに向き直った。

「どうしたの?」

彼女が自ら訪ねてくると言うことは何かしら用事があってのことなのだろう。

「いや、特に用は無いんだが、さっきクラウドがセレネを探していた」
「クラウドが?」

思わぬ人物の名前が上がったことに驚くと今度はライトニングに笑われた。

「そんなに驚くことか?」

月の渓谷で元いた世界の話を少しした日からもうかなり月日は経ち、カオス側にいる過去の英雄セフィロスと戦うことで彼、クラウドも疎らだったがだんだんと記憶が戻って来ていた。

「なあセレネ、セレネは……あいつと同じ世界から来たのか?」

いったい何故自分を探していたのだろうか。考えているとライトニングが違う質問を投げ掛けてくる。

「あいつ、クラウド?」わかってはいたがそう問い返すと「そうだ」と短い返事が聞こえた。

「うん、同じ世界か……うん。どうかな、そうなのかな?」
「答えになってないぞ」

曖昧に返すとまた困ったような声が返ってきて苦笑した。自分自身、わからなくなるときがある。本当に彼はわたしの知っている“クラウド”なのかと。けれど背丈も若干の雰囲気も違うが声や外見は多分彼だ。

「なんでそんなこと聞くの?」
「イミテーションと戦っている時、おまえ達の息がぴったりで驚いたんだ」

成る程。
見覚えのある大剣を振るう彼と、スコールと同じガンブレード(作りや重量は違うけれど)を扱うセレネ。二人ともどちらかと言えば接近戦を得意とする。サポートには遠距離戦が得意な者が回った方が効率は良さそうなのだが、二人は気にした様子もなくお互い背中を預けて戦っていた。己の死角である背中を預けるなんて、よっぽど信頼した相手でなければ易々と出来はしない。

「だからなんとなくそう思ったんだ……っとセレネ、あいつのとこ行かなくていいのか?」

言葉の途中で思い出したように言うライトニング。セレネは軽く笑って「大丈夫」と一言答えた。





*





あれから珍しくイミテーションが現れることもなく、カオスの者に出会うこともなくライトニングとすっかり話し込んでいた。日も暮れてそろそろかなとセレネは一人月の渓谷に足を運んだ。
いつもセレネが腰掛けている岩の縁には先客がいて、見かけによらずふわふわとした金色のそれが風に揺られていた。

「遅かったな」

まるで約束していたかのような言い方。
決してそんなことはないのだが。

「それはこっちのセリフ」

ずっと待っていたのだ。君の記憶が戻るその時を。ゆっくりと立ち上がって、振り返った彼の瞳はとても優しい色をしていた。昔見たあの時のように。

「思い出したんだ」

真っ直ぐに見つめられ、不思議とその優しい視線に縫い付けられたように目が逸らせない。二人を照らす月は静かに闇に佇む。

「セレネ、俺は……」
「ダメだよ」

何もかも話してしまいそうな彼に急いで歩み寄って、その薄い唇に自分の人差し指をぴとりとくっ付けた。必然的に言葉を紡げなくなるクラウド。

「セレネ」
「わかるでしょう?
君はあれから成長した。きっといろんなことが起きて、巻き込まれて、でも乗り越えて、だから今の君がいる」

黙り混むクラウドの唇から指を退けるとセレネはそのまま続ける。

「でもわたしはあの時のまま。何も変わっていない。見て、わかるよね?」

今のクラウドと比べると、やはり自分は少し幼く見える。男性程極端に変わりはしないものの、それでも違いはわかるはずだ。

「まだ、わたしはあなたに出会ってはいけなかった。でも出会ってしまった」

何の因果か、運命には抗えなくて。

「ね、クラウド」

君がいなくなったと思い込んだ時代に、違う世界で君と出会って、その君は少し先の未来を生きる君で。

「もう一度約束しよう?」

黙り込んでいたクラウドにゆっくり抱き締められた。その時見えた表情はとても穏やかなもので。

「セレネ、戦いが終わったら、」

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