「おかえり」(2/2)



ギィっと思ったより大きな音を立てて扉が開いた。しんとした教会にその音が静かに響いていく。
目的の人物は探さなくても自然と視界に入ってきた。

「………」

天井から太陽の光が降り注いでいて、その部分だけは小さな花がたくさん咲いている。小さくて健気で、それでも精一杯生きている花たち。エアリスが毎日欠かさず手入れをしているからか、その花たちはどこに咲いている花よりも綺麗に見えた。

そんな花の前。
静かに佇む背中があった。

わたしからしたらとても大きな背中なのに、今日はとても小さな背に見えた。

「……」

革靴で板目の床を歩くと独特の音がしてそれが静かな教会にコツコツとやけに大きく響く。わたしはゆっくりと、でも確かにその大きくて小さな背中に歩む。

一歩手前程で止まると、ザックスの背が震えた気がした。

「っ………」

彼の背を見てから光いっぱいに輝く花たちに目を向けた。今にも天使が降りてきそうだ。

「……くっ……う」

嗚咽のようなくぐもったザックスの洩らす声を耳で感じると、天を見つめていたわたしの目からもゆっくり一筋涙が伝ってきた。
それを拭うでもなくそっと彼の後ろに膝立ちに座って、大きくて小さな背中を覆うように抱き締めた。

「っう……く……」
「ザックス」

胸に感じるザックスの背中から、彼の震えが伝わってきて一際強く抱いた。ザックスの前で交差した両腕にゆっくり彼の手が重ねられて、わたしはそっと瞼を落とした。

「おかえり……」

ぽつりと、けれどはっきりと彼の耳にそう呟くと、堪えきれなくなったらしい彼の泣き声が大きく反響した。





*





ザックスの手で自らアンジールの命を断ったのだと、後に会ったツォンさんに聞かされた。
けれどそんなのは彼を見ただけで容易に理解できていた。

世を苦しめるものすべてと戦うとアンジールと約束したザックス。アンジールの存在はきっとアンジール自身を苦しめるのだと、あの人ならそう考えそうだ。

ジェネシスとアンジール。
そして英雄セフィロス。

英雄に憧れた少年の抱く夢は、





*





「セレネ」

用事があって49階、ソルジャーフロアに来ていたわたしは名前を呼ばれて振り向いた。

「ザックス」

最近になって変わった髪型に、少し違和感を感じつつも彼らしいかなんて思うと自然と笑みがこぼれた。

「なんだよ、いきなり笑って」

案の定彼は大袈裟に不思議がって肩を揺らした。そんないつもの彼らしい行動に、安堵なのかそれともただ単に本当に面白かったのかくすくす洩れるわたしの笑い声は次第に大きくなっていった。いい加減笑い止まないと彼が拗ねてしまう。

「あはは。ううん、ちょっと、ね」

目尻に溜まった涙を自分の指で拭うと時すでに遅し。不満そうに唇を尖らせるザックスの顔。

「ごめんってザックス、ちょっとツボっちゃっただけ」
「フォローになってないだろ!」

まったく、と腕を組むザックス。
うん、やっぱり彼は表情豊かでないと。泣いてる彼も不謹慎な話可愛いけれど。わたしはやっぱり太陽みたいに笑う君が好きだよ。

「ねえザックス」

相変わらず尖ったままの唇でザックスが振り向く。君の方が背が高いから、少し大変だから反動を付けて背伸びして

「おかえり」

ゆっくりその唇に自分のそれで触れた。
鳩が豆鉄砲喰らったように目を見開いて驚くザックスを置いてエレベーターフロアに歩いていこうとした。あ、今人いなかったよね?

「っセレネ……」

書類を胸の前で抱えてご機嫌で歩き出したわたしの腕を。

「ざっ……」

力強く引っ張られてバサバサと書類が散らばる。代わりにぎゅっと後ろから抱き込むようにきつく抱き締められていた。ザックスに。

「ありがとな」

耳に掛かる彼の声。
逞しくてあったかいザックスの腕。

不意に背中から何かが入り込んで、涙がボロボロと零れ落ちてきて。

「セレネ……」

あやされるみたいに真っ正面から抱き締められた。





***





「今度、」

人目を気にしてくれたのか、誰もいないトレーニングルームに連れていかれて。暫くわたしは声をあげて泣いていた。ザックスに抱き締められながら。

「連れてってほしいな」

ザックスがアンジールを慕っていたのは知っていた。そしてアンジールがとてもいい人だと言うのも。
何度か任務で一緒になって、わたし自身アンジールと意気投合していたからだ。

「……だめ、かな?」

躊躇いがちにザックスを見上げると、柔らかく笑った優しい青と目があった。

「だめなわけないだろ」

大きな手で頭をぽんぽん撫でられて、目を細めた。

「セレネ」


今度は彼から。
ふわりと抱かれて、わたしも彼の首に腕を回した。


*fin*



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