ぽつぽつと、先ほど雨足の強まった雨は段々と勢いを増して。その雨を利用して雷を放てば複数いた相手は全員感電したようで。急いでクラサメの元へ走ると、
「……っ」
自分より大きいはずのその広い背が、
とても小さく見えたんだ。
龍神の聖域への任務だった。珍しくクラサメと2人きりのミッション。
「龍神の聖域って、確か何もないよね」
コンコルディアの町であれば別なのだが道草を食うわけにはいかず2人はしっかりと言われたミッションをやり遂げた。
COMMを使ってフィアが魔導院へ報告をしようとしていると、ふと自分たち以外の何者かの気配を感じ、クラサメは氷剣を握った。フィアも耳に手を当てたまま可変式の剣を現出させる。
「向こうか?」
気配を感じた方へゆっくりと歩む。
さわさわと生い茂る背の高い草を出来るだけ音を目立たせずに掻き分け、フィアもクラサメの後に続く。少し進むと草の背が低くなり視界が良くなって。
「っ……」
立ち止まるクラサメに倣い、フィアも彼の視線の先を辿る。いや、そんなことをしなくても彼女の視界にもそれは入っていて。
「っフィア、来るぞ!」
感傷に浸る間もなく、先ほど感じた気配の主だろうか。背後から長い刀の刃先が振り落とされた。氷剣の刃でそれをクラサメが受け止める。
「よく気付いたな〜?お坊ちゃん」
「あれはお前の仕業か?」
あれ、とクラサメが顎でしゃくった先はさっき2人が立ち止まった場所の地面。
下品な笑い方をする男にフィアは嫌悪感を抱いた。交戦するクラサメの後ろでフィアも剣を可変させ銃を構えた。
「クラサメくん!」
彼の名を叫ぶとフィアは引き金を引く。弾が辿り着く前にクラサメがするりと視界から消え、伏せた彼の頭上をフィアの放った弾が通過した。
男は慌てて自分の刀で弾の弾道を断ち切ると伏せていたクラサメへ刀を突き立てるが。
「くそ!!」
既にそこにクラサメの姿は無く、冷たい氷剣の刃が背後から男の喉元に当てられていた。
「お前がやったのか聞いてるんだ」
男の喉元すれすれに、ぴったりと刃を宛がうクラサメ。その冷たい瞳には確かな怒りが込められていた。
「へっ、オレだけじゃ無いぜ。気分が悪かったから、ちょっとばかし可愛がってやったんだよ」
悪びれた様子無く言う男に、クラサメの眼光はいっそう鋭さを増した。
フィアはどこか哀れみを含んだ目で男を蔑んだ。
「気分が悪かったからって、トンベリ達に八つ当たり?いい大人が、恥ずかしくないの?」
クラサメとフィアが見たのは大量のトンベリたちの亡骸だった。モンスターとは言え、人に害を与える部類のモンスターではない。何の罪もない彼らの命を理不尽な理由で絶ったこの男が、許せなかった。
「おいおいお嬢ちゃん、奴らモンスターだぜ?人間に害を与えるモンスターを狩って何が悪い?むしろオレは誉めてほしいくらいだな。コンコルディアの平和はオレらによって保たれてる」
「っ……話にならないな」
ガッと、クラサメは男の背を思い切り蹴飛ばした。倒れ込む男を踏みつけて髪を掴み持ち上げる。
「っお、おい、待てよ待てよ。どーしてんなに怒ってんだよ。オレはっ……」
馬鹿な男はそこでクラサメの殺気に漸く気付いたのか、少し吃りながらも手を顔の横に付けた。けれど今更、クラサメとフィアの怒りは収まらない。
「命が惜しかったら、とっとと俺達の前から消えろ」
凄みを利かせ低い声でそう言い捨てるとクラサメは男の髪を離し立ち上がる。
腰を抜かした男など構わずに、2人は動かないトンベリたちの元へ向かった。