大嫌い、キミと聖夜。(1/3)

クリスマスなんて、大嫌いだった。






そんな恋愛ドラマや恋愛小説、1度くらい見たことがあるかもしれない。クリスマスが大嫌い、なんて言う人物はあり得なさそうで意外と使い古された気障なセリフにすら聞こえてくる。
けれどこれはお芝居でも無く、洒落た恋愛小説でも無く、実際問題彼女は本当にクリスマスが大嫌いなようで。

「フィアさん〜0組のクリスマスパーティー出ないのお?」

何かと彼女になついているシンクは少し残念そうな声音でそう言った。

「折角のクリスマスなんだから、たまには隊長も副隊長も抜きで楽しみなよ?」

くすり、と笑いながら寂しげな表情のシンクの額を小突くフィア。

「わたしが候補生の時は隊長なんか誘わなかったけどなあ?」

少し大袈裟に言って見せるフィアにシンクもくすくすと笑いながら元気よく頷き、にっこりと笑い呟いた。

「そっか、フィアさんはたいちょーと過ごしたいもんね?」
「大人をからかうんじゃありません」

ていっとシンクの頭を軽く叩くと悪戯っぽく彼女は舌を出して笑った。
フィアに手を振ってパタパタと教室に戻るシンクを見送り、フィアもまた魔方陣に足を向けた。


*


確か去年は任務だった。
一昨年は彼が泊まり掛けで出払っていたし、その前の年は攻防戦に駆り出されてクリスマス所じゃなかったし、その更に前の年は2人共執務に追われていたし。
別にクリスマスに甘い甘い一夜を過ごせることに期待して彼と付き合っているわけではない。お互いに忙しい武官に立場を置くわけであるし、季節のイベント事に浮かれていられるような歳でもない。
けれど、シンクに「クリスマス」と言われて、はたと思い出してしまったのだからどうしようもない。

「クラサメさん、0組のパーティー誘われました?」

少しの期待を胸に、の質問だった。

「ああ、断ったけどな」
「仕事ですか?」

自室のデスクの前で、この間国境付近で起きた小競り合い事件の報告書を読むクラサメ。傍らにはまだ白い蒸気がゆらゆらと立つマグカップが置かれている。

「いいや。わざわざパーティーに隊長を呼ぶこと無いだろう?」
「あはは、わたしと同じ理由だ」

彼も考えることは同じらしい。
候補生たちのパーティーに隊長と副隊長が同席するものでも無いだろう。彼らだけで楽しんだら良いと。
フィアの言葉にクラサメはふっと笑みを洩らしカップに口を付けた。

「何飲んでるんですか?」

マスクをしていない彼の顔より、何を飲んでいるかの方が気になった。ひょい、とカップを覗き込もうとしたところで。

「飲むか?」
「え、良いんですか?」

すっとそのカップを差し出される。彼のそんな行動に少しだけ驚いてカップから視線をクラサメに向ける。

「ありが……っ」

受け取ろうとしたカップは没収されて、空振ったフィアの手が空を切ったと同時に突然腕をぐいっと引き寄せられて。

「んんっ」

思い切り、唇が塞がれた。
触れ合うだけの可愛いものではなく、呼吸を奪うような、濃い繋がりを求めているような、深い深いキスだった。

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