朝目覚めて最初に感じた気だるさ。
起き上がるのさえ億劫で、なんだか頭も霧が掛かったようにぼうっとしていた。
けれどよくよく時間を確認してみれば無情にも時計の針は授業の1限目を終える時刻を指していて。
「まずい……!」
0組の2限目を任されているフィアは無理矢理に体を叱咤し起き上がった。
Ich habe mich erkaeltet
「おい、フィア」
移動時間になんとか教室に辿り着いたのは良いのだが、顔が異様に熱かった。
「なあ、おい、シカトかよコラ」
「え、あ、何、ごめんナイン」
ぼうっとしていた為自分に呼び掛けるナインに気付かなかった。何度目かで漸く顔を上げると怪訝そうなナインが顔を覗き込んでくる。
「なんかお前、顔色悪くねえか?」
教壇に手をついて下からじぃっと顔を見つめられる。普段ナインにはおバカな印象しか持っていないのだが、何故か彼はこういう時鋭い。しかしここで「はい具合が悪いです」なんて副隊長の口から言うわけにはいかない。フィアは曖昧に笑って否定して見せた。
「そんなことないよ、気のせい」
それで早く引き下がってくれればいいものを、彼はこういう時頑固だ。そういうところだけ少しクラサメに似ているかもしれない。多分言ったらどちらにも盛大に否定されるだろうが。
「いいや、ぜってぇーいつもより変だって。さっきも歩いてる時ふらついてただろ?おい」
そんなとこまで見られていたのか。失態だななんて思いながらもフィアは笑顔を絶やさなかった。幸い、その後すぐに予鈴が鳴ったので「座らないと特別課題出すよ」と笑って言うとさすがに席に戻ってくれた。
「今日は昨日の続きからー、」
教科書を開いた時、隣にいたモーグリまでもが心配して「本当に大丈夫クポ?」と聞いてくるものだから思わず苦笑いした。そんなに自分は顔色が悪いのか。
思い当たる節と言えば勿論昨日、風邪を引いて床に付していたクラサメの部屋での出来事。何がとは言わないが、もれなく彼の風邪を頂くような行為はしたわけで。
(クラサメさんが休んだ次の日にわたしまで休むわけにはいかないよね)
何をしていたかがバレバレである。
そんなことになればまた嫌味だけは超一流の軍令部長にイビられるだけで。いつもはそことなく助けてくれるクラサメだって今回は分が悪くなる。自分は我慢すればいいにしろ彼までとばっちりを喰らうだろうし、そういう訳にはいかない。
(迷惑掛けたくないしね)
動けない訳ではないし現場の指揮を取れと強いられているわけではない。授業くらいなら出なければ。そう思って無理矢理に体を起こしたのだ。
「ええと、じゃあ……っ」
教科書片手にチョークを持ち、黒板の高い位置に腕を伸ばした時だった。くらりと目眩がして自分の体を支えきれず、フィアの体は虚しくもその場に崩れた。
next