朝の光がサンサンと入り込むエントランスホール。ガヤガヤと元気な候補生や訓練生とすれ違い「おはようございます」と挨拶をされる。「おはよう」とそれに笑顔で返しながら足を進め、赤い絨毯の廊下に差し掛かる。
こちらもザワザワと騒がしい声が聞こえてくる。兄弟のように仲の良い0組。
「おはよう、みんな揃ってるかな?」
教室に足を踏み入れて、クイーンに号令を掛けるよう言うと14人全員が各自の席に着いて立ち上がった。
Bist Du schon gesund?
「あれ〜?たいちょーは?」
出席を取り終わると早速シンクが問い掛けてきた。そう、本来なら朝からの授業と出席を取るのはフィアではなくて0組の指揮隊長であるクラサメの役。副指揮隊長のフィアがこうして朝から0組の教壇に立つのは任務の時くらい。
「クラサメ隊長はご気分が優れないようなので、今日は1日わたしが代わりをします」
そう言って教科書を手に取り附箋のページを開く。どこまで進めて何をやっているかは今朝クラサメからちゃんと聞いていたため特に困りはしなかった。
「えーと、じゃあ教科書の」
「「「ええええええー!?」」」
指定のページを言おうとしたフィアの声は0組全員の声によって遮られた。
フィアは驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。
「あいつが体調崩したあ!?」
ケイトが驚いて飛び起きている。
「隊長が体調崩した〜なんてね〜」
ジャックは相変わらずの調子で親父ギャグなんかを咬ましている。
「め、珍しいこともあるんですね」
クイーンも何気に驚いているようで、少し動揺していた。
「ちょ、みんなちょっと!クラサメさんだって風邪くらい引くよ」
そんなクラサメの言われようにさすがに同情心が芽生えてフィアはフォローを入れた、つもりだったのだが。
「風邪!?」
余計な一言だったようだ。
「あの野郎が風邪?はっ、馬鹿はやっぱり風邪引くんだな!」
ナインが鼻高々にそう言い放った。
そんなナインに対し、トレイが即座に目を光らせたのでフィアは軽く苦笑い。
「それを言うならナイン、馬鹿は風邪を引かないですよ。そもそもその迷信と言うのは……」
「フィアさーん、たいちょー大丈夫なの〜?」
語り出すトレイを差し置いてシンクが手をぷらぷらと振って聞いてくる。なんだかんだでみんなクラサメの事を心配している(ように少なくともフィアは見えた)ので微笑ましかった。
「ドクター・アレシアによればただの風邪だから、すぐ治るって言ってたよ」
とは言え、熱はあるらしく絶対安静を言い渡されていたけれど。
「マザーが言うなら大丈夫だな」
エースがそう言うとみんな口々に「そうだね」と呟き出す。トレイはまだナインに雑学を披露していたけれど。
「さてほら、授業始めるよ!
クラサメさんから課題いっぱい預かってきたんだからね。今日の授業聞いてないと答えられないよ〜?」
満面の笑みで言うフィアに、候補生たちからは全力でブーイングが起きた。
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