affection.(1/4)

「クラサメさん」
「なんだ?」

0組の授業が終わってちょうどエントランスを歩いていた彼を呼び止めた。ゆっくりと振り向いてから相手がわたしだと確認し、一言彼は先を促した。彼の横をちょこちょこと歩いていたトンベリも倣って此方をゆっくりと振り返る。そんな素振りが主である彼にそっくりで、なんだかおかしかった。


affection.



「……その、」

フィアとクラサメはここ魔導院ペリシティリウム朱雀に属する武官であり、候補生時代からの先輩と後輩だった。勿論彼、クラサメ・スサヤの方が先輩である。先輩後輩と言っても結局は同じクラスで任務に当たっていたため同級生なのだけれど。

「……えーと」

現役時代の実力は勿論彼の方が上で、フィアと言えばクラスの中では下から数えた方がまだ早い部類。朱雀四天王とまで呼ばれることになった彼とは比べるまでもない。

「フィア?」

ところが驚くことに、まるで実力の離れた二人はどういう訳かお互い気の知れた関係になっていて、フィア・サキトは彼公認(と言う言い方は変だけれど)の恋人だったり、するのだ。

「ああ……いや、その」
「用がないなら呼び止めるな」

のだけれど。
候補生時代から尊敬する人だったので敬語は抜けないし、なんだか恋人同士と言う関係になってから逆に気を使ってしまいそうになることがしばしばだった。気の知れた関係、の筈だったのだけど。

「や、用はあります。軍令部長が呼んでました。この間の任務の報告書について質問が2、3あると」

特に魔力が強いわけでもなく、戦闘技術が飛び抜けて長けているわけでもない。平々凡々のステータスの自分のどこが良かったのかいまだにフィアは謎で中々拭えない。自慢出来ることと言えばそこそこ候補生と仲が良くて(多分)信頼されていることくらいだ。

「……またか」

とは言え、今みたいに彼が愚痴めいたことを人前で出すのはかなり珍しい(とエミナに聞いた)ので一応それなりの信頼は置いていてくれているよう。

「前にも確か同じようなこと伝えましたよね、クラサメさんに」

彼が愚痴の1つも溢したくなるのは当然で、0組の育ての親であるドクター・アレシアの事を目の敵にしている軍令部長は勿論0組の事もよく思っていない。そしてそんな0組の指揮隊長である彼にまで火の粉が飛んできているのだ。

「代わりにわたしが行きましょうか?」

いくら元朱雀四天王と言え身体は普通の人間だ。日々目まぐるしく変わる戦況や任務に0組の指揮、やることは山積みの彼。それに加えてただ立って威張っているだけの軍令部長の嫌味まで聞かされるなんてあまりに理不尽過ぎる。
一応はフィア自身も指揮隊長の経験はある上、今は彼直々の指名で0組の副隊長をやらせて貰っている。この間の任務ならば彼女も同行したのだし、嫌味に正論をぶつける事くらいなら出来なくもない。けれど、

「いや、平気だ。フィアは気にするな」

根っからの真面目な性格ゆえの彼らしい返答だった。これがまた違う隊長であれば彼女の提案に真っ先に首を縦に振っただろうに。

「それよりフィア、他に何か言おうとしたんじゃないのか?」
「え」

すっかり忘れ去っていた当初の用件をあっさりと彼に呼び戻される。ああそうだった、本来話したかったことはこんなことではなくて。

「あー……ええと、ですね」

トンベリがぴょんと跳ねた。
そっちに視線を向けたことでそういえばここはエントランスホールだったことを思い出す。さっきから彼と話している最中にも候補生や訓練生達が挨拶や会釈をしてくるのはいつもと変わらない風景だったけど。

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