ただそれだけで、何もかもから解放されたような脱力感と、言い表せない程の達成感が同時に込み上げてきたのを。
今でも確かに覚えている。
RAY OF LIGHT
鴎暦842 空の月 6日。
度重なる闘争や紛争を続けていた朱雀・白虎の両国だったが、兼ねてから望まれていた上層部同士の厳密な話し合いによりこの日を以て全ての戦いを停止させ、両国共に和解へ向けての協定を結んだ。
勿論それは終戦と言う言葉を率いてオリエンス全土に発表され、長く続いていた両国の戦争は完全に終結したのだった。
魔導院の噴水前でその放送を聞いていたフィアは周りで喜ぶ候補生や朱雀兵達など目に入らず、直ぐ様院内へ駆けた。
フィアの頭に真っ先に浮かんだ人物は思いの外早く見付かった。勿論彼もまた放送を聞いていた内の1人なのだろう。エントランスホールから軍令部へ続く左側の階段、手摺を掴んで立っていた。
「クラサメさん……!」
フィアはその姿を確認するなり人目も気にせずに叫んだ。そうしてその人物目掛け、再び思い切り駆け出したのだ。
「っ……フィア!」
どん、と音がするほど。
まるで彼に体当たりを仕掛けたような。それほどの勢いで彼目掛け走ったフィアをしっかりと受け止めるクラサメ。
「危ないだろ、それにここは何処だと」
「魔導院のエントランスホールですっ。今はそんなの関係無い!」
咎めようとする相変わらずなクラサメの言葉を遮って彼の質問に答えるフィア。けれどそんなことより今は。
「今の聞きました?終わったんですよ、全部、何もかも……!」
やや興奮気味にぎゅうぎゅうと抱き着いてくるフィアにはさすがのクラサメも苦笑せざるを得なかった。
「ああ、そうだな」
泣きそうな、嬉しそうな、いろいろな感情が混ざりあった結果フィアは目一杯の笑顔を浮かべてクラサメを見つめた。普段はポーカーフェイスの多い彼もこの時ばかりは優しい瞳の色をしていて。
「戦争が、終わったんですよ!」
そう言ってまたクラサメへ抱き着くフィアの体を、彼も優しく抱き返した。
周りにはたくさんの候補生や武官達も勿論いたのだが今更どうしようもない。
終戦の喜びぐらい、愛しい人とその気持ちを一緒に分かち合いたかった。
“終戦”の言葉に興奮気味の周りの連中はそんなクラサメ達を見て冷やかすような声だったり、野次馬的観点から興味有り気な視線を向けてくる者もいた。
勿論こうして愛しい人と喜びを共にしているのはクラサメ達2人だけではない。
「長かったな……」
そう言うクラサメの表情も明るい。
フィアは抑えきれない笑顔を思い切り振り撒いてクラサメの顔を見つめ返す。
「長かったけど、いつかこうやって、クラサメさんと。……クラサメさんと喜び合えるって信じてました」
歓喜深くそう呟くフィアの瞳がだんだんと揺らいでくる。それに気付いたクラサメは彼女の腰を引き寄せてそっと0組の教室の方へ向かった。