空の涙(2/4)

「クラサメくん!この子まだ、微かにだけど息がある……!」

トンベリたちをせめて見つけた自分たちが弔ってやらねばと、2人別々に彼らの亡骸を運んでいた時。
フィアが抱き上げたトンベリが微かに息をしていたのだ。慌てて此方に走ってくるクラサメ。

「傷は?」
「ちょっと酷いけど、待って」

そう言うとフィアは傷付いたトンベリをクラサメへ受け渡し、そっと手を翳す。
眩いグリーンの光がふわふわと集まりフィアの手の中で揺れる。熱くなる手のひら。構わずフィアは意識を集中させた。
ふっと、その光が一瞬でトンベリの体に消える。すると。

「………」
「やった!」

ぐったりとしていたトンベリはむくりと起き上がった。クラサメの腕の中で。
フィアがグッとガッツポーズを取るとそれを見たクラサメがふっと笑った。

「治癒魔法はフィアの方が得意なんだったな」

一先ず元気になったトンベリを草の上で休ませ、2人は他のトンベリたちの埋葬を続けた。掘り起こした土を元に戻し、その前で2人手を合わせ目を閉じる。
次に瞼を開いた時にはいつの間にか助かった1匹のトンベリがクラサメたちと同じように色の違う地面を眺めていた。

「君のお友達、助けてあげられなくて……ごめんね」

しゃがみ込んでトンベリと視線を合わせるとフィアは言った。クラサメも同じような表情でトンベリを見つめる。

「………」

ぺたり、と小さな手がフィアの頬を撫でた。まるで「あなたは悪くないんだよ」とでも言うように。
自然、フィアの視界が歪みポロポロと大粒の涙が溢れてきた。いつの間にか雨脚は弱まっていた。

「フィア……」

クラサメはそっとしゃがみ込むフィアを後ろから抱き締めた。彼自身も、居たたまれない気持ちを抱えて。

「っごめん、こんな、泣くつもり……」
「気にするな。俺と、こいつしか見てない」

そう言ってぽんぽんと頭を撫でられ、ぎゅっと体を抱き寄せられた。甘えてそのままクラサメへ体を預ける。するとトンベリもぺたぺたと此方へ歩んできて。

「フィアになついたみたいだな」

フィアの背をそっと撫でていた。
よく見てみると頬に×印の傷がついていて、それは真新しいものではないよう。実はヤンチャなトンベリだったりするのだろうか。



*



「おはよ、クラサメくん」

ミッションから一夜。
龍神の聖域近くの町、アミターで宿を取った2人は魔導院へ帰る前に軽い朝食を取っていた。

「ああ、おはようフィア」

少し遅れてきたフィアは眠そうに椅子を引いた。

「よく眠れたか?」
「うーん、……見てわかるよね?」

意地悪な質問にフィアは唇を尖らせた。
少しだけ笑いながら、ごめんごめんと手を上げるクラサメにフィアは頬を膨らませる。

「意地悪」
「悪い。嫌な夢でも見たのか?」

変わって今度は心配そうに聞いてくるクラサメに、なんとなく怒る気は無くなりフィアは朝食のパンを手に取ると小さくため息をついた。

「うん……昨日のさ、助けたトンベリいるでしょ?元気にはなったけど、ちょっと心配で」

頬に×印の傷があったトンベリ。
言わずもがな彼らが助けたトンベリなのだが、1日だけでも安全な場所で預かろうと考えた時には姿が見えなくなっていて。
慌てて辺りを見回すとぺたぺたと2人から遠ざかり草むらの奥へ帰って行く彼の背が見えたのだ。

「共存、って。難しいのかな」

ぽつりと呟くと千切ったパンを口に運んだ。クラサメもスープを飲んでいた手を止めてフィアを見て窓の外に視線を向けた。

「かもしれないな。簡単なようで、なかなかうまくいかない」

鉛色の空が不安定に動いていた。
パラパラとこの地に降る雨は止まない。
そんな空を閉じ込めたクラサメの瞳がフィアを捉える。

「でも、大丈夫さ。自分から俺たちの元を離れたんだ。今頃は……」

「大変だっ!誰か医療の知識のある者はいないか!?」

クラサメの言葉を遮るように、宿の扉が勢いよく開かれた。見ると若い男が血相を変えて立っていた。

「ヤバイんだ!トンベリの群れを狩ってた男たちを止めに入った奴が返り討ちにあっちまって……」

2人は思わず血の気が引いた。

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