長細いキュウリだけを置いて巻き簾を巻こうとしていたフィアの元へひょっこりとカヅサが戻ってくる。
慌てて巻いてしまおうとしたのだがカヅサがフィアの手元を見る方が早かった。細巻きにすることは諦めて少しでも細い太巻にすることを考えた方がいいかもしれない。そう考えた時。
「フィアくん違うよ。クラサメ君のだったらもっと太いだろう?」
クラサメとフィアの動きがピシリと止まった。(クラサメは元々動けないが)
「やだなあ、クラサメ君の銜えたことない?幾らなんでもこれじゃあクラサメ君の息子さんが可哀想だよ」
「………カヅサ」
クラサメはガクリと項垂れた。
本日2回目だ。若干涙も出てきそうだ。
対するフィアは俯いたまま。
「……の」
カタカタ震えていた。
「ほらほら、じゃあクラサメ君の銜える練習ってことでもっと具詰めなきゃ」
震えるフィアの横でさっさかと具材を詰めて巻いていくカヅサ。哀れんだような複雑そうな視線をそこに送るクラサメ。
「ほーら出来た!どう?なかなか理想的な太さになったんじゃないかな?ねえフィアく……」
言葉を止めたカヅサに倣いクラサメもフィアの方へ視線を向ける。
「美味しそうな太巻ですねえ、あはは」
フィアの腕にはクラサメのトンベリが抱かれていた。ゴゴゴ…となんだかすごい効果音を立てながら綺麗に笑うフィア。抱かれているトンベリは半べそだ。
「フィア、……フィア君!ちょっと落ち着こうか、ほら、北北西向いて太巻」
「あはは〜ほんと美味しそうな太巻」
太巻を差し出すカヅサに詰め寄りながらフィアは笑ってトンベリの包丁を握っている手を掴んだ。
「え、ちょっと待った!フィア君!ちょ、僕の大事なクラサメ君の息子さ」
「食べづらそうなんでちょっとトンベリに協力して貰いますね♪」
スパッと軽快な音が教室内に響いた。
*
カヅサは結局フィア達に気を取られていたため、0組の候補生達が彼の猥褻観察の餌食になることは避けられた。
各自願いを胸に無言で太巻を食べる姿は中々シュールだったらしいが。
「ああ、僕の大事な太巻……」
「いい加減こっちに来て片付けを手伝えカヅサ」
痺れ薬から復活したクラサメはフィアと2人、教室の片付けを行っていた。
「だってクラサメ君の息子さんが」
「次にその言葉を口にしたらおまえを息子ごと凍らせてやるが?」
「はい、すみません」
ピシャリと言い退けたクラサメは教壇の机にトンベリを乗せようとトンベリを抱き上げる。その時ぐらりと、彼の足元が揺らいだ。
「クラサメさんっ」
「っ……すまない」
慌ててクラサメを支えるフィア。
なんとかトンベリを机に上げる。
「まだ薬が抜けてないみたいだ……」
「無理しないでくださいね?」
心配そうに言うフィアの頭をクラサメはぽんと撫でる。
黙っているカヅサは輪切りにされてしまった太巻を見つめてからゆっくりとそんな2人を視界に入れる。
「フィア君怖かったなあ……」
太巻の1つをつまんで彼はそれを口に放った。具材は贅沢な物ばかり詰めていたため味は中々だったりする。
「あ、そうだフィア君!クラサメ君のはくれぐれも大事に扱……」
「ファイガ!!」
「ブリザガ!!」
教室内に爆発音と静寂が広がった。
*終われ*
2012/02/02 了