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「そうそう、言い忘れてたけどフィア君も勿論太巻作って食べてね!」
「はっ!?」

カヅサのとんでもない発言にフィアはクラサメを支えたまま彼に振り返る。
取り敢えず太巻を作り出した0組の皆を尻目に、カヅサの盛った薬の所為で痺れて体が動かないクラサメを椅子に座らせてその横で彼を支えていたフィア。

「当たり前だろう?だからクラサメくんを行動不能にさせたのに」
「……」

実験の時に撮られた写真さえ無ければフィアは今すぐこの男を焼き殺してやりたいと思った。
しかし考えてみればカヅサの言う“どっかの国”の皆は普通に太巻を作って丸かじりしてるんだ。普通に考えて普通に食べれば何の問題もない。妙に冷静に頭で考える。

「普通に、恵方巻き作って食べれば良いんですよね?」

カヅサが最初に良からぬニュアンスの言葉を口にしたからそっちの方向に考えてしまうわけであって、純粋に行事を楽しめばいいのだ。向こうで太巻制作に励んでいる0組の子たちのように。

「そうそう、普通に作って食べてくれればいいんだよ」

フィアは開き直って太巻の材料を得るべく配膳台の元に向かった。



*



「じゃーん、シンクちゃん特製太巻〜」
「シンク、それ具材が多すぎて口に入らないんじゃないか?」

人の口の大きさでは到底かぶり付けない程の太巻を持ち上げたシンクにセブンが冷静に突っ込んだ。

「ナインのそれは……太巻なの、か?」
「ああ?うっせえな食えればいいんだろ食えれば?」

中々に巻けていない太巻と言うか軍艦巻き状態のナインの太巻。エースとマキナは苦笑い。

そんな様子をなんだかんだ微笑まし気に見ながらフィアも別のトレーに材料と海苔を乗せていく。

「隊長はあそこで何してるんだ?」

せっせと材料調達に励むフィアに不意にエイトが話し掛けた。あそこ、とは勿論教室の一番端の席の方で。
視界に入ったクラサメとカヅサを見てフィアは苦笑いしながら言った。

「うん、ちょっと最近疲れが溜まってたみたいで、目眩がしたらしくてね。だから座ってるんだよ」

疲れが溜まっているのも目眩がしたのも本当なんじゃないだろうか。



*



「材料持ってきましたよ」

皆の輪から離れてクラサメとカヅサの元に戻ってきたフィア。持っていたトレーを机に置いた。

「よしよし、じゃあ作ろうか」

怪しい笑いを浮かべるカヅサに悪感が走ったがフィアは首を横に振ってそれを拭った。専用の巻き簾に海苔を置いて、白米を均等に乗せる。

(具を少なくしちゃえばそれほど大口開けなくて済むよね)

そう、フィアには考えがあった。
シンクやナインのは論外だが、何も太巻と意識して具材を詰め込まなくとも普通に食べやすい細巻きぐらいにしてしまえば大口開けてかぶり付かなくても済むのでは無いだろうか。
そうしてしまえばこっちのものだ、と0組の方へ様子を見に行ったカヅサを尻目にフィアは急いで白米を乗せていた。

「フィア……」

動けない少し可哀想なクラサメが申し訳なさそうにフィアの作業を見つめる。

「大丈夫ですよ、クラサメさん。ちゃんと考えがあるのでカヅサさんの好きにはさせませんから!」

にっこりと微笑み掛けるとクラサメは少しだけ安堵した表情になった。

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