(2/4)

「と、言うわけで今日は僕が特別授業をするから、宜しくね」

0組の教室の端でフィアとクラサメは不安そうに溜め息を吐いた。

「じゃあまず僕の事は“カヅサ先生”って呼んでね。その方が雰囲気出るから」

教壇に立つカヅサは何だかとても楽しそうで生き生きとしていた。対するクラサメはしかめっ面でそんなカヅサが良からぬ事をしでかさないか見張っている。
そしてその横でそんなクラサメが気掛かりで見守っているフィア。

ひょんなことから今日、2月3日の授業を自分にやらせてくれないかとクラサメに提案してきたカヅサ。実験に欲しいデータ収集が出来て且つ0組の皆に教養を与えられるからと上手く丸め込まれたクラサメとフィア。
まあ自分達が見張っていればカヅサが良からぬ行動に出たとしても止められる。だから許可を出したのだが。

「さて今日はみんなに恵方巻きを作って貰いまーす!」

カヅサがパチンと指を鳴らすと、従卒のアリアが面倒くさそうにガラガラと配膳台を運んできた。台の上には湯気を立てた白米や色とりどりの具や食材が乗っている。

「恵方巻き……?」

クラサメの眉間がひくっと動く。

「は〜い!カヅサせんせ〜」
「なんだいシンク君」

聞き慣れないカヅサの言葉にすかさず手を挙げたのはシンク。しっかりと先生呼びを実行している辺り彼女らしい。

「恵方巻きってなーにー?」
「良い質問だね!恵方巻きって言うのはどっかの国で節分の日にその年の恵方に向かって目を閉じて一言も喋らないで願い事を思い浮かべて太巻きを丸かじりすると願いが叶うかもっていう風習だよ」

得意気に語るカヅサだったが、クラサメはあまり良い予感はしなかった。

「ほえ〜願い事叶うの〜?」
「丸かじりして完食できればね」

「じゃあやるー!」と張り切るシンク。

「なんか楽しそうだね、マキナ!」

「願い事が叶う」と言う言葉に女子はやはり弱いらしい。レムやデュースにケイト達もシンクと何をお願いするか話し出す。下らない、と口では言いつつ、サイスやナイン達も興味はあるらしい。

「うーん、良いねえ……女子はともかく男子達が太巻銜えてる姿なんて早々見れないからね」

わいわいと先ほどアリアが運んできた配膳台の周りに集まる0組の候補生達を余所にカヅサがぼそりと呟いた。すかさず睨みを利かせるクラサメに苦笑するフィア。

「あーうそうそごめん、ごめんなさい、別にちょっとした好奇心でみんなの卑猥な顔が見たいとかいう訳じゃ……」
「っカヅサおまえ……やっぱり」

口を滑らせたカヅサ。一層表情を険しくしたクラサメの手にシュンッと氷剣が握られる。

「おまえの欲を満たすために講義をすることを許可したんじゃないんだ、今すぐ授業を中止っ……」
「クラサメさん!?」

凄まじい形相で今にもカヅサを真っ二つにするんではと心配して見ていたフィアだったが、カヅサに詰め寄るクラサメが突然踞った。慌ててクラサメに駆け寄ると。

「あーびっくりした。中々効いてこないからどうなるかと思ったよ」
「っカヅサ……おまえまさか」

辛うじて話しているがなんだか苦しそうなクラサメ。今度はフィアがカヅサを睨む番だった。

「カヅサさん!もしかしてクラサメさんに薬盛ったんですか!?」
「だってこんな授業したらクラサメくん絶対怒って授業させてくれないだろう?だからちょっと、さっき2人に試食して貰ったヤツにさ」

「ちなみに痺れ薬だから眠りはしないから大丈夫だよ」と何が大丈夫なのかわからないが言葉を付け足すカヅサ。あっけらかんと言い放つ彼に呆れたフィアだったがクラサメの代わりに授業を止めさせなければならない。0組の副指揮隊長なのだから。

「フィア、すまない……カヅサを」
「任せてください!」

ばっと立ち上がって何の具材を入れようか、何を願おうか、あれやこれやとアリアも交えて盛り上がっている彼らの元に行こうとしたフィア。しかし。

「フィア君良いのー?この間実験に協力して貰った時の恥ずかしい写真、まだ残ってるんだけどなあ」
「カヅサさん!授業進めましょうか!」
「っフィア……!」

クラサメはがくりとその場に崩れた。

next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -