「随分単純だな?」
ぴと、とクラサメの指先がフィアの頬を突っついた。くすぐったそうにフィアは笑うとクラサメの胸に擦り寄る。
「クラサメさんが傍にいると、安心して治りそうな気になります」
あたたかいクラサメの胸。
彼に抱き締められながら同じ時間を共有出来るなんて、なんて幸せなんだろう。くすぐったいようなあたたかいような、ふんわりとした空気が2人を包む。
「フィア」
「なんです……っ」
ちゅ、と触れるだけのキス。
その後に彼が見せる少し意地悪な表情。
「早く治るといいな」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。
フィアは赤くなった頬を見られまいとクラサメの胸に顔を埋めた。
*
「あー、フィアさん〜!」
シンクの嬉しそうな声が教室に響いた。
2限目の授業。
扉を開けて入ってきたフィアに真っ先に声を掛けたのは彼女だった。
「あれ〜?フィアさんもしかして隊長とお揃い?」
「ジャック、違います」
からかうジャックを叱咤するフィアの顔の半分は隠れていて。どこか0組の部隊長を連想させた。白いマスク越しにフィアは軽く咳払いを1つ。
「完全に風邪が治った訳ではないので、みんなに移すわけにはいかないからね」
「成る程」
頷いたセブンに倣って他のメンバーも納得した様子。しかし。
「でも、なんでたいちょーもいるの?」
フィアの立つ教壇の横。腕を組んで何故か立っている人物にシンクは首を傾げた。2限目の授業は確かフィア1人での担当のはずなのだ。
「あ、いやクラサメさんは……」
「監視役だ」
説明しようとしたフィアの声を遮ってクラサメが簡潔に一言述べる。しかし0組のメンバーはそんなクラサメの言葉に更に首を傾げるだけ。
「監視役?」
エースがクラサメに問い返す。
「わ、わたしが……」
「まだ安静にしていろと言うのに、強引に授業をしにきたお前たちの副隊長がまた授業中に倒れないよう見張っているだけだ」
ここでもフィアの言葉を遮るとクラサメは一息で言ってのけた。ポカンと口を開ける0組一同。
「つ〜まり、フィアさんが心配だから来たって、こと〜?」
「隊長って意外とフィアさんバカ?」
「ケイト、シンク。何か言ったか」
すかさず2人を牽制する彼の耳は地獄耳のようだ。
(……授業、しづらいじゃん)
フィアは心の中で1人、静かに溜め息を吐いた。
(でも、……)
それだけ愛されてると、いうことなんだろうか。
白いマスクの下、フィアは誰にも悟られずにその唇を湾曲にしならせた。
*fin*
(独)Pass auf Dich auf.
└気をつけて。
2012/01/02 了