「ご迷惑お掛けしました……」
全部吐き出しスッキリした所で漸く申し訳なさそうトイレから出てきたフィア。
「少しは楽になったか?」
「はい、お見苦しいところをお見せしました……」
しおらしく肩を丸めたように頭を下げるフィア。彼女としてはあんなところクラサメに見られたくなかったのだが。悲しいかな酒を断れなかった自分が悪い。
「気にするな」
「いえ、お恥ずかしい限りです……」
顔を上げるとクラサメは顎に手を当てて何かを考えていて。
「フィアの恥ずかしい姿ならもう」
「その先は出来れば頭の中だけで再生お願いします切実に」
ふっと笑われる。
たまに彼はとんでもない冗談を言う。冗談なのかすら判断し難い冗談を。
「まあ、少し休んだらいい。まだ完全に酒が抜けた訳ではないだろ?」
「うう……すみません。断れば良かったんですけどね」
彼のベッドに腰掛けると待っていたトンベリがぴょこぴょことお盆を持って此方にやってくる。お盆の上にはガラスのコップが置かれていて。
「トンベリ?わ、ありがとう」
「………」
ちょこんとフィアにコップを差し出してくれるトンベリ。コップには冷たい水が入っていた。
「いや。ナインのところに行く時に、理由を付けてフィアも連れていくべきだったな……」
腕を組んでふうっと息を吐くクラサメ。
トンベリから貰った水を飲んでフィアは言った。
「クラサメさんの所為じゃないですよ。お酒進められて、断るとノリが悪いって肩とか腰とかお尻にタッチされるんで、嫌だからつい……」
「…………は?」
真剣にフィアの話を聞いていたクラサメが思わず間抜けな声を上げた。
聞き間違えか?自分に自分で問う。
「あといきなり肩組まれてお酒注がれたら、さすがに断りづらくて……」
「……………」
しょんぼりと頭を下げるフィアの腕をトンベリが優しくぽんぽんと撫でる。
しかしどうにも堪忍袋の尾が切れかかっているトンベリの主には2人とも気がつかないようで。顔を上げたフィアは盛大に驚いた。
「クラサメさん?何で剣なんか持ってるんですか?」
「すぐ戻る。トンベリ、彼女を頼んだぞ」
ぴょこんっとトンベリが跳ねた。
背を向けて廊下に出ていった彼の手には鋭い切っ先の氷剣が握られていて。それを掴む彼の手にもギリギリと力が込められていた。
パタン、と閉まった扉を見て、トンベリと顔を見合わせる。
「モンスター退治頼まれてたのかな?」
「………」
トンベリは心の中でクラサメにエールを送った。
「でもさ」
トンベリと2人きり。
フィアはトンベリの小さな手をぎゅっと握って先ほどから考えていたことを話し始めた。
「わたしクラサメさんに迷惑掛けてばっかりだよね?カヅサさんやエミナにも」
彼らの中で歳は1番下だったが、それでも彼らには迷惑ばかり掛けている気がしてならなかった。
「みんなやっぱり迷惑だよね……」
しゅんと肩を落とすフィア。
酒の力も相俟ってか、普段の彼女と比べかなり落ち込んでいる様子。
そんなフィアをなんとかして励まさなければ、そう良心の働いたトンベリはパタパタと部屋の中を走り出した。
「トンベリ?」
暫くしてトンベリが何か黒い1冊のノートを持って戻ってくる。ぱっと差し出され、フィアは首を傾げながらも適当にページをパラパラと捲った。
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